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p.145 抽出テキスト

動脈の拡大率はともに大きいが,BAVでの大動脈拡大は半数程度の症例にすぎず,BAVの病態の多様性が示唆された1624).2015年の後ろ向き観察研究では,大動脈弁置換術後の大動脈解離の発症率は,Marfan症候群で5.5%に対しBAVでは0.5%と低く,大動脈瘤手術もMarfan症候群で10.4%に対しBAVでは2.5%と低かった1625).また, 2016年の前向き臨床研究では,大動脈解離の発症率と解離後の遠隔期死亡率はともに,Marfan症候群に比べBAVで低かった1626).したがって,bicuspid aortopathyは遺伝性大動脈疾患の一つであるが,正常大動脈に比べリスクが高いものの,他の遺伝性大動脈疾患に匹敵するほどではないと認識されている.最近の病理学的検討では,Marfan症候群とBAVはともに大動脈組織中のフィブリリン-1の発現低下が認められたが,発現マーカーの一部に違いもあり,異なる遺伝子異常が背景にあると考えられている1627).

BAVの原因遺伝子についてはNotch1の関与が報告された1628, 1629)が,他にも複数の遺伝子が示唆されており, BAVの遺伝的背景の全容は解明されていない.

BAVに伴う異常血流ストレスについては,4次元心臓MRIにより血流の方向や速度が可視化され,大動脈壁ずり応力が定量的に評価されている.BAVでは正常大動脈と比べて異常な右回りのらせん血流が上行大動脈に生じ,血流の軸が大きく傾くことで大動脈壁ずり応力が増加し,大動脈拡大に影響することが示唆された1630).大動脈壁ずり応力が増加した部位では中膜弾性線維が崩壊し,TGFβ ,マトリックスメタロプロテイナーゼの上昇など細胞外マトリックスの異常を伴い,bicuspid aortopathyとの関連が示唆された1631).また,BAVの弁形態に応じて異なる心拍出ジェット方向と速度を示し,大動脈の拡張形態の違いをきたすメカニズムも示唆された1632).

2.2 手術適応

表52 大動脈二尖弁に伴うaortopathy の外科手術の推奨

とエビデンスレベル

推奨クラスエビデンス

レベル

無症状の大動脈二尖弁に伴う大動脈基部・上行または弓部大動脈径≧55 mmの症例に行う543, 1626, 1633–1635).(表12, P. 62 を参照) I C大動脈解離の危険因子

*を有し,無症状の大動脈二尖弁に伴う大動脈基部・上行大動脈径≧50 mm の症例に考慮する539, 543, 1551, 1633, 1634, 1636).(表12,P. 62を参照) IIa C

場合と同様の適用と使用方法が遺伝性大動脈疾患にも許容されるかどうかは,現在のところエビデンスに乏しく,推奨できない.

一方,A型解離手術におけるオープンステントグラフト/ FETを併用した全弓部置換術は,遺伝性大動脈疾患においても安定した早期成績,良好な遠隔期予後と大動脈リモデリングが得られており,推奨できる1105, 1125, 1582, 1585, 1609, 1610).

遺伝性大動脈疾患に対する侵襲的治療の範囲は全大動脈領域とその主要分枝に及ぶことも多く,これを複数回の外科手術のみで治療する方針よりも,適切なタイミングと治療範囲で血管内治療を計画的に併用する方針が,予後を改善するものと考える.今後は外科手術とTEVAR/ EVARともに熟練した施設において症例を重ね,データを集積することが必要である1582, 1602, 1604, 1606, 1608, 1609, 1612, 1613, 1616).

2.1 病態

大動脈二尖弁(BAV)に伴う上行大動脈(基部~弓部)の拡大や瘤化は「bicuspid aortopathy」と呼ばれ,BAV患者の約4割にみられる1617).このbicuspid aortopathyでは,遺伝性要因が判明したものは全体の数%にすぎず,多くはBAVに伴う血流ストレスが影響した多因子疾患と考えられている1618).BAVの形態として180°で2分する真性二尖弁はまれであり,左冠尖–右冠尖癒合型70%,右冠尖–無冠尖癒合型10~20%,左冠尖–無冠尖癒合型5~10%の割合である1619).一方,bicuspid aortopathyの形態は,I型:大動脈基部のみ拡大(13%),II型:上行大動脈のみ拡大(14%),III型:上行から弓部大動脈の拡大(28%), IV型:基部から弓部大動脈まで拡大し弓部径は漸減(45%)に分類される1620).左–右冠尖癒合型ではI,II型が多く,右–無冠尖癒合型では基部拡大はまれでII,III型が多い1621).また,大動脈縮窄症の症例の約90%で左–右冠尖癒合型のBAVを合併する1622).

BAV症例は,他の遺伝性大動脈疾患と同様に若年齢で急性大動脈解離をきたしやすい1623).大動脈組織中のフィブリリン-1発現が低下して大動脈径が拡大する540)ことから, Marfan症候群との類似性を考慮し,2010年のAHA/ACCガイドラインでは遺伝性大動脈疾患に準じたbicuspid aortopathyの治療戦略が推奨された95).しかし,その後のBAVとMarfan症候群の大動脈径の比較研究では,上行大

2 大動脈二尖弁に伴うaortopathy