p.142 抽出テキスト
遺伝性大動脈疾患に対する大動脈基部置換術では,若年齢の大動脈弁輪拡張症で大動脈弁の機能が保たれている場合にはVSRRの良い適応であり,大動脈弁閉鎖不全の再発の観点でremodeling法よりもreimplantation法のほうが良好な予後を期待できる.しかしながら,VSRRはBentall法と比べて手術手技がやや複雑で,人工心肺時間や心停止時間の延長を伴うなど手術リスクが増すため,手術手技に熟練した外科医と施設での実施が望ましく,術後の心臓弁および大動脈関連合併症の予防や治療のために,定期的な心エコー検査やCT検査による継続的な経過観察が不可欠である. 1.5.2 Marfan症候群の急性大動脈解離 Marfan症候群を初めとする遺伝性大動脈疾患では大動脈壁の脆弱性ゆえに大動脈解離をきたしやすく,大動脈解離に対する治療後も遺残大動脈に対する注意が必要である.IRADのデータからMarfan症候群の258例を含む6424症例を検討した結果,Marfan症候群の有無により急性A型解離の院内死亡率に差を認めなかった.しかしながら,Marfan症候群の5年生存率は80.1%,再手術回避率は55.3%で,再手術のリスクは高かった1581).遺伝性大動脈疾患に対する大動脈基部置換術後の弓部以遠の治療成績の検討では,手術死亡率2.5%で対麻痺の合併はなく,術後10年生存率62%,大動脈イベント回避率24%で,いったん大動脈解離を発症すると高率に再手術が必要となることが明らかとなった1582). 急性A型解離の際,entryの位置や手術リスクとの兼ね合いで,上行大動脈置換,大動脈基部置換,弓部置換まで,さまざまな手術術式が選択される.Marfan症候群における急性A型解離発症時に上行大動脈置換にとどめるか基部置換まで行うかの比較では,20年後の基部再手術回避率は基部置換で79%に対し,上行置換のみの場合は20%と低く,Marfan症候群のA型解離発症時にはBentall手術もしくはVSRRが推奨される1583).一方,弓部大動脈に関して,非解離の症例では基部置換に弓部置換を同時に行わない場合に弓部への再手術率は3%程度であるが,急性A型解離の症例では全弓部置換まで行わないと弓部への再手術率は33%と有意に上昇する1584).しかしながら,実際には救命が第一の目的であり,基部置換を合わせるとかなりの侵襲になることから,急性A型解離発症時に全弓部置換まで行うかどうかは,施設や外科医の経験値と手術リスクを考慮して慎重に判断する必要がある. 最近になりオープンステントグラフト/FETの有効性が示されている.Marfan症候群の急性解離に対しFETを併施した全弓部置換106例の検討では,手術死亡率6.6%, き試験で,reimplantation法121例,remodeling法25例の結果,術後15年生存率は93%と,年齢性別をマッチさせた対照に比べ低かったが,大動脈弁閉鎖不全の再発率は7.9%であり,reimplantation法でより良好な結果であった.また,術後15年間に大動脈解離が17%に発症し,主要な死因であった1573).別の施設からの2013年の報告では, 178例の遺伝性結合織疾患(84%がMarfan症候群)に対するreimplantation法において,周術期死亡はなく,術後8年の生存率94%,術後6年の大動脈弁再手術回避率92%であり,再手術の主な原因は感染性心内膜炎と弁形成不全であった.中等度以上大動脈弁閉鎖不全の再発率は術後4年で12%であった1574).本邦からの報告でも,Marfan症候群47例を含む59例のreimplantation法の検討にて,手術死亡はなく,術後5年生存率は94%,大動脈弁再手術の回避率96%,中等度以上大動脈弁閉鎖不全の再発率は11%であった1575).また,VSRR術後10年で大動脈弁置換術回避率が60%以下まで低下しており,その要因としてremodeling法が挙げられた1576). 近年,Marfan症候群に対するBentall手術とVSRRとの比較研究がいくつか発表された.単施設での後ろ向き研究では,Bentall法に比べてVSRRでは血栓塞栓症と出血合併症が少ない一方で,遠隔期生存率,再手術回避率には差がなかった1577, 1578).2014年の多施設共同前向き研究では, Marfan症候群の316例をVSRR群239例とBentall群77例で比較した結果,術後1年生存率は97~98%で差がなかったが,VSRR群で中等度以上大動脈弁閉鎖不全が7%に出現しており,中長期予後について続報が待たれる1579).また,メタ解析もあり,2011年の報告では11論文1385症例(VSRR群413例,Bentall群972例)の検討で,再手術率がVSRR群で高く(年間1.3%対0.3%),remodeling法はreimplantation法よりも高かった(年間2.4%対0.7%).一方,血栓塞栓症の発症率はBentall群で高かった(年間0.3%対0.7%) 1576).2017年の報告では23論文2976例(VSRR群1352例,Bentall群1624例)の検討で,VSRR群は遠隔期死亡が少なく,血栓塞栓症リスクが低く,出血合併症,感染性心内膜炎も少なかった.一方,再手術回避率は両群で有意差を認めなかった572).2018年には20論文2156症例を用いたreimplantation法に限定したVSRRとBentall手術との比較において,中遠隔期の生存率と院内死亡率や再手術回避率についてもreimplantation法の方が良好であった1580).なお,Bentall手術における人工弁については,弁関連合併症や心臓関連死亡が多く,生体弁使用時は再手術率が高く,機械弁使用時は抗凝固関連合併症が多かった574). これらの報告をもとに,Marfan症候群をはじめとする