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p.139 抽出テキスト

くなく(B群),4遺伝子については大動脈瘤・解離を認めることもあるがリスクは不明(C群),23遺伝子については大動脈瘤・解離のリスクが否定された(D群).その他の7遺伝子については,現時点では判定できず,今後の再検討が必要な遺伝子(recent gene)と分類されている1562)(表48).A群は大動脈瘤・解離が主症状であり,瘤と解離を高率に合併することが確認されており,臨床的にも積極的介入が推奨される.これらはさらに,A1(definitive):症候群性大動脈瘤・解離の原因遺伝子,A2(definitive):非症候群性大動脈瘤・解離の原因遺伝子,A2(strong):症例数は少ないが,実験データなどにより大動脈瘤・解離のリスクがきわめて高いと判断される遺伝子,の3つに細分類される.このうち,臨床的意義の大きいA1,A2の中でも比較的頻度の高い遺伝子について解説する. a. A1:症候群性大動脈瘤・解離i. FBN1 遺伝子(15q21)

Marfan症候群の原因遺伝子であり,細胞外マトリックスの主要成分であるフィブリリン-1の前駆体蛋白質をコードしている1530).フィブリリン-1は皮膚や血管を構成する弾性線維の構成成分として必須の糖蛋白質であるだけでなく,TGF-β シグナルの活性を制御することにより血管壁の恒常性の維持に関わるとされる.病原性バリアントの約1/3が,ナンセンス・バリアントやフレームシフト・バリアントなど,ペプチド合成自体が阻害される変異であることから,Marfan症候群の症状の多くは,FBN1遺伝子のハプロ不全で説明可能である1563).また,こうしたハプロ不全型バリアントを認める患者では,血管合併症がより重症化しやすいとされる1564).一方,一部のミスセンス・バリアントには,変異蛋白質による優性阻害効果を引き起こすものもあり,水晶体偏位合併例にはシステインに関連するミスセンス・バリアントが多く,また新生児期に診断される重症例には特定の領域のミスセンス・バリアントや大きな構造異常をもたらすものが多い. ii. TGFBR1 遺伝子(9q22),TGFBR2 遺伝子(3p24)

Loeys-Dietz症候群の原因遺伝子であり,それぞれTGF-βのI型受容体,II型受容体をコードしている1538–1540). TGF-β シグナル伝達系は細胞増殖・分化の制御をとおして生体の恒常性の維持に広く関わっているため,その制御異常により骨や血管を中心とした全身の結合組織に症状が現れる.TGFBR1・TGFBR2遺伝子の異常では,一般的には症候群性大動脈瘤・解離の臨床型を呈するが,同じ遺伝子バリアントであっても症状の個人差は大きいので,血管外症状が乏しい症例の存在に注意する.

の一症状として大動脈病変を認める「症候群性」と,血管系のみに病変が限定される「非症候群性」に大別される.前者の場合,早期から原因遺伝子ごとに骨格・眼・皮膚などにも特徴的な症状を認めることが多く,身体所見から診断に至るのが一般的だが,血管症状の発現は他の症状に比べて遅れる傾向にあり,血管合併症が見逃されることも少なくない.後者では大動脈解離を発症するまで診断されないことがほとんどである.

一方,遺伝性大動脈疾患の多くは,若年期から大動脈瘤・解離などを発症するが,降圧薬治療や予防的大動脈基部置換術などの早期介入により,解離を予防することが可能となる.早期診断には遺伝学的検査がきわめて有効なことから,2016年4月にMarfan症候群など一部において診断を目的とした遺伝学的検査が保険収載された.さらに,遺伝学的検査に際しては,患者管理や家族のケアもふくめ検査前後の遺伝カウンセリングが必須であり,カウンセリング自体も保険適用となっている.

1.4.2 遺伝性大動脈疾患の原因遺伝子

大動脈瘤・解離をその要因から分析すると,胸部と腹部とで異なる.大動脈瘤の多くは腹部大動脈を好発部位とする高齢者の病気であり,高血圧や動脈硬化が背景にあり,発症には生活習慣などの環境要因の影響が大きい.腹部大動脈瘤・解離は,その10~20%に家族歴を認め,遺伝的要因の関与が推測されるが1560),遺伝的要因と環境要因の両者が発症に関与する多因子疾患であり1561),単一遺伝子の変異が原因で発症するものはきわめてまれである.

一方,胸部大動脈瘤・解離の一部には,単一遺伝子の異常で発症するものがある.その代表がMarfan症候群など症候群性遺伝性結合織異常である.しかしながら,これはTAA全体の10%以下であり,多くは大動脈病変以外の症状を伴わない非症候群性大動脈瘤である.ただし,非症候群性TAAでも,その約20%は家系内に患者を認め534),高血圧・動脈硬化などの危険因子を伴わず若年で解離を発症する家系については,背景に単一遺伝子異常がある場合がある.結果として,胸部大動脈瘤・解離の最大25%は単一遺伝子異常が原因で発症し,これらを「遺伝性大動脈疾患」と呼ぶ.多くは常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式をとるため,原因遺伝子を明らかにすることにより,病態に基づいた患者管理が可能となり,早期診断・治療や家族のスクリーニングに結びつくことが期待される.

遺伝性大動脈疾患の原因遺伝子については,2018年に大動脈解離のリスクをもとに再評価がなされ,その結果, 11遺伝子において大動脈瘤・解離発症リスクが高く(A群), 8遺伝子がリスクはあるものの解離に進展するリスクは高