p.137 抽出テキスト
本症候群は広範な血管系症状(大動脈瘤・解離,中小動脈瘤,先天性心奇形)と種々の骨格系症状(漏斗胸または鳩胸,側弯,弛緩性関節,先天性内反足,頭蓋骨早期癒合,頚椎不安定性など)を高率に認める1539).臨床像はきわめて幅広く,Marfan症候群と酷似した所見を呈する症例(以前に2型Marfan症候群と呼ばれていた疾患を含む) 1540)や,血管型Ehlers-Danlos症候群様の易出血性を呈する症例,Shprintzen-Goldberg症候群様の異形性の強い症例,血管系以外の症状は伴わず家族性大動脈瘤と診断される症例1541) など,さまざまである.その後,類似の臨床症状を呈し大動脈瘤・解離をきたす患者で,TGF-βシグナルを構成する因子SMAD3やTGF-βリガンドをコードする遺伝子(SMAD3,TGFB2,TGFB3) 1542–1544)の変異が報 告された.この疾患概念はより広く,また,ときに急速に病状が進行する点で,Marfan症候群や他の胸部大動脈瘤・解離とは異なる. 身体的所見が少ない症例もあり,Marfan症候群や血管型Ehlers-Danlos症候群との鑑別は重要である.中には染色体部分欠失によりこれらの遺伝子のハプロ不全を生じて本症候群の特徴を示す症例もあり,この場合,大動脈瘤・解離の所見自体は軽い.同じ遺伝子変異の症例間でも異なる遺伝子変異の症例間でも,症状の程度や所見にはばらつきが大きいが,全体としての生命予後は同様である.一方で,急速に進行する大動脈瘤1545)は本症候群の特徴の一つであり,特にTGFBR1あるいはTGFBR2遺伝子に変異を有する頭蓋顔貌所見の強い患者は,より小さい血管径でも大動脈解離を生じる. これらの遺伝子変異を有する疾患は,個々の症例の臨床所見のばらつきは大きいものの,Loeys-Dietz症候群として診断・管理されるようになっている.臨床所見・画像所見を参考に,病因として知られる遺伝子(TGFBR1, TGFBR2,SMAD3,TGFB2,TGFB3など)の病的変化の同定により診断される.さらに,未知の病因遺伝子もありうることに注意が必要である.また,大動脈病変の進行も症例ごとのばらつきが大きいことに注意すべきである. 1.2.4 動脈蛇行症候群 大動脈や中動脈の蛇行,延長,瘤形成を特徴とするまれな常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)疾患1546)である.肺動脈や大動脈の局所狭窄がみられることもある.長い顔,眼瞼裂短縮,眼瞼裂斜下,鈎鼻,高口蓋,小顎などの特徴的顔貌,結合織疾患特有の柔らかで伸びやすい皮膚,高身長,胸郭変形,関節弛緩,関節拘縮など,Marfan症候群様の骨格系の特徴もみられる. 糖質トランスポーターGLUT10 をコードするSLC2A10 特徴的臨床所見・画像所見とCOL3A1遺伝子の病的変化の同定により診断される.診断基準は,表47 1537)にある大基準1項目または小基準複数項目の存在により疾患が疑われ,遺伝子検査により診断される.最終診断はCOL3A1遺伝子の病因変異(バリアント)の同定によるが,同定されない場合には培養線維芽細胞のIII型コラーゲンの生化学分析が行われ,異常が同定されることで診断される. 1.2.3 Loeys-Dietz症候群 Loeys-Dietz症候群は当初,大動脈蛇行と全身の大動脈瘤,眼間開離,二分口蓋垂を3主徴とし,Marfan症候群に類似した身体所見を呈するが,水晶体偏位を伴わない常染色体顕性遺伝(優性遺伝)疾患であり,病因としてTGF-β I型・II型受容体の遺伝子変異によると報告された1538). 表47 血管型Ehlers-Danlos 症候群の診断基準(2017)診断は大基準の1 つまたは小基準の複数の存在で疑われる(とくに40歳未満の症例).以下の臨床所見は遺伝子解析実施の判断に有用である. A. 大基準・動脈瘤,動脈解離,動脈破裂・小腸破裂・妊娠中の子宮破裂・血管型Ehlers-Danlos症候群の家族歴B. 小基準・薄く透けた皮膚(とくに胸部,腹部)・特徴的顔貌(薄い口唇,小顎,細い鼻,大きな眼)・肢端早老症(とくに手指)・頚動脈海綿状動静脈瘻・小関節過動性・腱/筋肉断裂・若年発症静脈瘤・気胸/血胸・易出血性(自然に,または些細な外傷で)・慢性関節(亜)脱臼・先天性股関節脱臼・内反足 発端者の血管型Ehlers-Danlos症候群の診断は次のいずれかによる. 1. 遺伝子検査によりCOL3A1遺伝子の病因バリアントがヘテロ接合体として同定される. 2. 血管型Ehlers-Danlos症候群が疑われるがCOL3A1遺伝子の病因バリアントが同定されない場合に,培養線維芽細胞のIII型コラーゲンの生化学分析によりIII型コラーゲンの産生異常や易動度異常を認める.なお,1臨床的に診断が疑われる場合にはCOL3A1 の遺伝子検査が勧められる,2臨床的に類似所見があるかまたは軽い場合にも遺伝子検査は価値がある.まれにCOL3A1遺伝子の両アレルに病因となるバリアントが同定されることがある.通常,血管型Ehlers-Danlos症候群は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式で遺伝する. (Malfait F, et al. 2017 1537)より作表)