GL検索 v0.1.0
画像は 135 ページを描画したものです
page 135

p.135 抽出テキスト

患者が発端者(家系内で遺伝子変異が最初に起こった患者)である可能性がある.Marfan症候群には診断基準があり(改訂Ghent診断基準)

1526),遺伝子検査をしなくても

臨床的に診断できる.Marfan症候群以外の遺伝性大動脈疾患については臨床的な診断基準がなく,確定診断には遺伝子検査が必要となる.

遺伝子異常には症候群性(身体所見にある程度の特徴がある)であるMarfan症候群,Loeys-Dietz症候群,血管型Ehlers-Danlos症候群,SMAD3遺伝子異常などと,非症候群性(その外見から遺伝子異常を推定することは不可能)であるACTA2遺伝子異常などがある.

遺伝子異常は大動脈壁中膜に異常を引き起こすことにより,若年で大動脈疾患を発症させる.中膜病変の程度は大動脈の脆弱性を規定するが,疾患によってその程度には大きなばらつきがあり,それが大動脈疾患の発症年齢の規定因子の一つであるとされている.以前はその中膜病変は「嚢状中膜壊死」(cystic medial necrosis, CMN)と表現されてきたが,他にcystonecrosis,cystic degeneration, mucoid degenerationなど,用語の統一がなく混乱をきたしたとして,近年ではmucoid extracellular matrix accumulation(MEMA)を用いることが米国と欧州の心臓血管病理学会から推奨され,明確な定義もなされている1527).

1.1 定義

「遺伝性大動脈疾患」とは,遺伝により発症が規定される大動脈疾患である.ただし,患者の代で新生突然変異などが生じる場合,浸透率が低いために遺伝子の変化があっても発症しない場合,潜性遺伝(劣性遺伝)形式のためにヘテロ接合体では発症しない場合など,家族や親族に大動脈疾患のみられないことがある.遺伝性大動脈疾患の多くは常染色体顕性遺伝(優性遺伝)病であり,大動脈以外の特徴的な所見を伴う「症候群性」と病変がほぼ大動脈に限られる「非症候群性」に大別されるが,同じ病因遺伝子による疾患であっても大動脈病変以外の変化がごく軽微なこともある.

遺伝性大動脈疾患では組織学的に嚢状中膜壊死所見を呈することが多い.Marfan症候群,血管型Ehlers-Danlos症候群は原因遺伝子の変異解析が診断基準でも重視されるようになったが,すべての遺伝子変異が同定されるとは限らない(本章の「1.4. 遺伝子診断」,P. 138~を参照).さらに,未同定の原因遺伝子の変化によるものもある.加えて,新生突然変異による場合も少なくないために,詳細な家族歴調査でも遺伝性が明らかにならないこと,遺伝子の変化(変異)が同定されても病因とはならない良性の変異(多型)との区別が容易でないこともあり,遺伝子解析(検

査)は万能ではない.また,大動脈二尖弁は家系内発症率が高く,大動脈瘤発症に関係し大動脈解離発症リスクが高いことが知られ,一部に特定遺伝子の変異との関係が報告されている.

1.2 症候群性遺伝性大動脈疾患

1.2.1 Marfan症候群

小児科医Marfanの報告(1896年)

1528)にちなんで命名さ

れた常染色体顕性遺伝(優性遺伝)疾患で,心血管病変,筋骨格異常および眼病変を合併し,遺伝性発症を示す全身性の結合織形成不全疾患である1528, 1529).原因と病態の解明が進み,ミクロフィブリルの主要構成成分であるフィブリリン-1をコードするFBN1遺伝子の変異により発症する疾患1530)と理解されている.遺伝子異常により弾性線維の形成や構築の異常,さらには平滑筋細胞との結合に異常が発生することが知られている1531)が,フィブリリン-1がTGF-β の機能変化をもたらし,細胞の分化増殖の要としてのTGF-βシグナルの増加を引き起こすことも,病態の原因となっている528, 1532).

20~30%は新生突然変異で生じ,心血管病変,骨関節病変,眼病変のすべてを呈しない症例もある.診断基準は,まずベルリン診断基準が提案され,その後,改訂版としてGhent診断基準が提案された.さらに,遺伝学的検査・家系情報の重要性が指摘されて,改訂Ghent診断基準(2010) (表46)

1526)が提案された.この診断基準は大動脈基部拡大と水晶体偏位を主要所見とし,FBN1遺伝子の検査所見を重視する.家族歴がない場合にも,大動脈基部拡大と水晶体偏位があればMarfan症候群と診断される.一方しかみられない場合には,FBN1変異の存在または身体徴候スコア7点以上でMarfan症候群と診断される.家族歴がある場合には,水晶体偏位,身体徴候スコア7点以上,あるいは大動脈基部拡大のいずれかにより診断される.身体徴候スコアは表46の項目により点数化される1526).その評価のため,心エコー検査(僧帽弁逸脱,大動脈基部拡大), CT検査(全身の大動脈瘤,硬膜拡張),骨X線検査(側弯,後弯,寛骨臼突出),眼科的検査(水晶体偏位),遺伝子検査が行われる.大動脈基部径は,年齢,身長・体重(体表面積)で補正評価したZスコア1533–1535)を算出し,スコア> 2(小児では,>3)により判定するが,他の大動脈疾患と同様に大動脈径計測と解離の有無の判定も重要である.