p.133 抽出テキスト
大動脈弁閉鎖不全症の再燃に対する弁病変への治療介入症例も増えつつある.また,成人先天性心疾患領域でチアノーゼ性心疾患根治術後の大動脈基部拡大病変が手術適応となることも散見される1510).Ross手術後のpulmonary autograft failureといわれる,遠隔期弁輪拡大による大動脈弁逆流も再手術の適応となっている1511). 大動脈基部または上行大動脈に対する再手術のまとまった成績報告としては,各施設での症例数56~269例の手術成績の解析で,早期死亡率は6.0~16.4%であった1509).同一領域の初回手術に比較し3倍以上の死亡率になるとされている.数値の開きが大きいのは,手術対象となる疾患背景に違いがあるためと考えられる.再手術時の危険因子としては,NYHA心機能分類III度またはIV度,年齢75歳以上,女性,慢性肺疾患,術前腎機能障害,予定外のバイパス手術を要するような冠動脈疾患,周術期心筋梗塞,緊急手術,体外循環時間の延長,術後に大動脈内バルーンパンピングを要する状態などが挙げられている1509). 再手術方法としては,病態と患者の全身状態を勘案し,個別化した術式の選択が必要となる.吻合部仮性瘤に対しては,同一術野から直達手術により仮性瘤修復を行うことが多いが,形態的な考察に基づいて低侵襲の治療法を選択しうる場合には,血管内治療としてコイル塞栓,プラグによる閉鎖,再TEVARも選択しうる1512, 1513).人工血管感染に対しては,再開胸ドレナージ,創洗浄,再置換,大網充填,閉創という一連の治療により根治を図るのが一般的である.しかしながら,患者状態が著しく不良な場合, vacuum-assisted wound closure(VAC)療法を行い,人工血管または同種保存凍結組織(ホモグラフト)などによる再置換を回避し,大網充填を行って治療するという選択肢もある1514, 1515). 上述の外科手術に入る場合に必要となる再胸骨正中切開に際しては,特記すべき留意点がある.弁膜症や冠動脈疾患,あるいは先天性心疾患における再手術と異なり,拡大した大動脈そのものや先行手術で置換された人工血管が胸骨裏面に強固に癒着している場合がまれではないことである.胸骨を切開する際にいかに細心の注意を払っても,大動脈や人工血管の損傷を回避しえない解剖学的状況がある.再開胸時に大出血をきたした場合の手術死亡率は47%にも上るとの報告もある1516).その可能性を事前に把握するためには,術前造影CT検査が有用であり,精度の高い評価を得るためには心電図同期CTが有用である1509).再開胸時に大動脈や人工血管の損傷を回避しえないと判断された場合には,再開胸に先立ち大腿動静脈などの末梢血管を露出させ,あらかじめ体外循環を確立して大出血に備える準備が必要である1509).大出血が予期された場合には超低体温循環停止法を併用し,許容時間内で再開胸操作 と大動脈遮断操作を完了して体外循環を再開する必要がある.循環停止時間が延長すると予期される場合には,あらかじめ両側総頚動脈に選択的にカニュレーションし,脳分離体外循環を確立する方法も有用と考えられる.さらに,大動脈近位部の再手術における死因として心筋梗塞が重要であることを勘案し,術中の心筋保護法に関しては特別の注意を払う必要がある1517). 3.1.2 上行・弓部大動脈 上行大動脈置換ならびに弓部大動脈置換術後の再手術の適応病態は,吻合部仮性瘤,置換部位以遠の瘤化病変の進展,解離発症,そして人工血管感染がある.これらの病態は下行大動脈・胸腹部大動脈置換術後にも同様に発生しうる.弓部・胸腹部大動脈置換術後のいわゆるパッチ瘤は,島状に人工血管に端側吻合された複数の頚部分枝,肋間動脈や腹部分枝血管の周囲が,瘤化した病態である.肋間動脈周辺の瘤に関しては,TEVARで治療可能な場合もあるが,虚血性SCIをきたすリスクがある.腹部分枝に関しては,分枝の個別再建術,または分枝をdebranchingしたうえでTEVARを行うという選択肢もある. 再左側開胸を要する再手術としての胸部下行大動脈置換術,または,胸腹部大動脈置換術に関するまとまった報告によれば1507),再手術の割合は,すべての胸部下行・胸腹部大動脈人工血管置換術の10.2~30.0%を占め,その早期死亡率は8.7~22.9%と記録されている.この死亡率については,初回手術の死亡率と比較して統計学的有意差はないとしている報告が多い1507, 1518)が,初回手術よりも有意に死亡率が高かったとする報告もある1508).一般に再手術症例には,Marfan症候群に代表される先天性結合織異常を伴う患者の割合が多いが,それらの患者は比較的若い年齢層であることが多いため,再手術操作に伴うリスクが相殺される可能性がある.したがって再手術時のリスク評価については,患者個々の危険因子を正しく評価に組み入れる必要があると考えられる.また,上述の成績報告はTAAAに対する手術経験が豊富な施設からの報告であることを念頭に置く必要がある.同様に,再手術時の主要合併症についても,統計学的に有意な増加はみられないとしている報告あるが,術後のSCI,腎障害,呼吸器障害の発生率については増加傾向がみられる報告もある.特に再左側開胸を施行する際には,左肺の剥離操作中に胸壁に強固に癒着した胸膜と肺実質を損傷することを回避できないことも多く,それに引き続く肺出血や無気肺などの肺合併症の併発リスクが高まる.