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p.132 抽出テキスト

2.3.6 低体温

低体温は脊髄虚血許容時間を延長するが,臨床的に脊髄温のサロゲートとなる温度モニター部位に定見がないこともあり,脊髄のQ10(温度係数)は確立されていない.実験的には,ウサギモデルで34.5~38.5°Cの範囲では1°Cの温度低下により虚血許容時間が5.5分延長したと報告されている1502).

心拍動下の手術においては,灌流冷却やnatural driftによる軽度~中等度全身低体温が用いられている.一方,中枢側大動脈遮断が困難な症例,あるいは分節的大動脈遮断が困難な症例を中心に,脊髄保護目的の超低体温循環停止下の手術も実施されている.しかし開胸術野からの超低体温手術は,心肺の保護に制約があり,手術侵襲が大きいため,1990年代前半には欧米では成績不良であった1503).1990年代後半になり,Kochoukosらの優れた成績667)が報告されて以降,成績も向上しているが,これを第一選択としている施設は限定されている.

脊髄を局所冷却する試みも,クモ膜下腔1504)や硬膜外腔1505)の冷却灌流により古くから試みられてきた.後者は本邦でも用いられているが,いまだ臨床研究の段階である.

2.3.7 段階的手術

Etzらは2010年,段階的手術がSCI発生率を低下させると報告した1411).これは,初回手術により分節動脈が閉塞された後,側副血行路が発達する時間が与えられるためと考えられている.段階的手術が可能な病態の多くは慢性大動脈解離であり,下流の大動脈拡大をどこまで許容して残すかという選択になる.段階的手術を選択する場合,第2期手術待期中の破裂のリスクに加え,再開胸となる第2期手術のリスクの評価も重要である.

2.3.8 薬理学的保護

実験的には多くの薬物で脊髄保護効果が証明されているが,臨床的にエビデンスを有するものはない.ナロキソンはAcherらの報告1461)以降,広く臨床応用されているが,その脊髄保護効果を比較検証した報告はなく,脳脊髄液中の神経興奮性アミノ酸放出を抑制したという傍証が存在するのみである1506).一方で,血管拡張薬であるニトロプルシドは,脳脊髄圧を上昇させ脊髄保護に不利であることが示されている. 3.1 外科手術後

表45 大動脈再手術の術前検査と再開胸前の体外循環の推奨とエビデンスレベル

推奨クラスエビデンス

レベル

術前にマルチスライス造影CT 検査を考慮する. IIa C術前のマルチスライス造影CT 検査で胸骨と心臓・上行大動脈・冠動脈バイパスグラフトとが隣接していることが判明した場合には,胸骨再切開に先立ち末梢血管へのカニュレーションを介して体外循環を確立することを考慮する. IIa C胸部および腹部領域の大動脈再手術は,大きく2つに分類できる1507, 1508).1つは初回手術での置換部位,またはステントグラフト(SG)留置部位から,隣接する非瘤化部位に新たに病変が進展した場合であり,新規病変の位置により,さらに近位側病変と遠位側病変に分けられる.2つめは,初回手術部位の修復または治癒不全によるもので,外科手術(人工血管置換術)後の吻合部瘤,近位または遠位端側の仮性瘤,パッチ瘤,人工血管感染,隣接臓器への瘻孔形成,TEVAR後のエンドリークによる瘤拡大,解離発症,SG感染,瘻孔形成などが挙げられる.病態の複雑性により手術成績は異なるが,日本胸部外科学会の年次報告によれば,再手術時の手術死亡率は初回手術時の2~5倍高くなる42).再手術時の手技的な工夫と補助手段の修飾などが必要となるが,近年では外科手術後のTEVAR, TEVAR後の外科手術という選択も多くなされ,相補的なスキルセットになっているともいえる.

3.1.1 大動脈基部

大動脈基部置換術後の再手術としては,弁輪縫合部や冠動脈再建部からの仮性瘤形成が特徴的である,診断のためには経胸壁エコー検査,経食道エコー検査が低侵襲であり有用である.人工弁周囲の構造変化をとらえるのが難しいこともあるが,その場合には心電図同期CT検査が有用で,診断精度はきわめて高い.仮性瘤形成の背景には,先天性結合織異常,自己免疫類縁疾患や感染合併があることが多いとされる1509).近年,VSRRが普及するにつれ,

3 再手術