p.130 抽出テキスト
再建中の脊髄虚血である1479, 1480).すなわち,再建中に十分な側副血流を維持できていないにもかかわらず,再建に要する時間の分だけ大動脈遮断時間が延長する(末梢大動脈由来の側副血行路に拍動流が回復するまでの時間が延長する)結果,一過性ではあっても脊髄虚血が許容時間を超えてしまうのが原因である.したがって,その多くは即時性障害となる1459).その他の障害発生原因としては,shaggy aortaの操作に伴う塞栓症1481)や,再建分節動脈の閉塞に伴う虚血などが考えられる. 分節動脈再建を行わない術式の場合,SCI発生の主因は,栄養動脈閉鎖に伴う周術期の血流低下である.これは側副血流量に左右されるため,解剖,病変や既往手術による修飾,血行動態,そして手術戦略に依存する.虚血は術中のみならず術後にも発生し,遅発性障害の形をとることも多い. 分節動脈再建を行わない外科手術の場合,盗血を最小限にし,大動脈遮断時間を短縮し,多少なりとも側副血行路のチャネルが開くことを期待して,瘤切開前に外から分節動脈を順次閉鎖するほうが有利である1482, 1483).超低体温の応用は,分節動脈非再建の場合,虚血許容時間の延長という利点を活かしきれないばかりか,復温中の低圧・定常流灌流による側副血流低下という弱点を抱えており,侵襲の大きさを考えると決して得策ではない. TEVARは,大動脈遮断がなく遠位側大動脈に拍動流が維持される点,盗血現象がない点で,術中は外科手術より有利である.ただし,塞栓による障害1481)には十分な注意が必要である.一方で分節動脈が再建できないため側副血流依存性となり,術後数日間にわたって遅発性障害のリスクがある.カバー長が長いほど側副血流の供給源が減少するため,リスクは高い.EUROSTARレジストリでは,オーバーオールの対麻痺のリスクは2.5%であるが,3個以上のデバイスを使用するとオッズ比は3.5となり,外科手術と 比較して決して有利とはいえない688).これは特にAdamkiewicz動脈をカバーする場合に顕著である1455). FET法に伴うSCIの原因は多様である.より遠位への留置594, 1484)や左鎖骨下動脈非灌流746)が危険因子とされる点からは,TEVARと同様,カバー長依存性の側副血流低下も一因と考えられる.しかし1990年代には,より浅い留置であっても障害が多発しており,その原因は独特である.留置時に遠位側灌流で大動脈を満たす対策が有効とされる点からは,空気や粥腫を含む塞栓症が関与594, 1484)しているとも考えられる.他には,解離の場合,偽腔の急激な血栓閉塞に伴うものがある. 2.3 脊髄保護法 2.3.1 脊髄栄養動脈の同定と温存,再建 古くは選択的肋間・腰動脈造影が行われたが,同定率は55~89%に留まるうえ,検査自体がSCIの原因となりうることなどから,一般化しなかった1462).最近はより低侵襲のマルチスライスCT(MDCT)や造影MRIを用いた検査が普及しており,その同定率は70~94%である119, 165, 166, 1460, 1485). collateral network conceptの普及に伴い,かかる栄養動脈の同定・再建は意味がないとする誤った理解が広まった.しかし,本コンセプトは本来,脊髄血流は1本の動脈に依存するものではないことを示すものであり,側副血流の供給源である分節動脈再建を否定するものではない.広範囲TAAAの外科手術において,肋間動脈非再建がSCI発生の危険因子であることは多くの報告がある1408, 1456).本邦の多施設共同研究165)でも,術前同定されたAdamkiewicz動脈の温存・再建はSCI発生率を低下させると結論されている.またTEVARであっても,特に治療長が長い場合には,開存しているAdamkiewicz動脈のカバーはSCI発生の危険因子であることが示されている1455). 術中に脊髄栄養動脈を同定する試みは,分節的大動脈遮断と電気生理学的モニタリングの組み合わせ1480, 1486)や,遮断分節や再建動脈への冷却液注入を電気生理学的モニタリング1487)や硬膜外温度センサーで検出するなどが行われている.しかし,術前に低侵襲で栄養動脈を同定できる時代を迎え,術中モニタリングの意義は変化している. 2.3.2 電気生理学的モニタリング 術中に脊髄機能を監視する試みは,1980年代から体性感覚誘発電位1486)や脊髄誘発電位1480)を用いて臨床的に行われてきた1488).しかし,体性感覚誘発電位は簡便である 図66 collateral network concept の水槽モデル(Shiiya N, et al. 2019 1459)より) © 2019 The Japanese Association for Thoracic Surgery. https://link.springer.com/ journal/11748 鎖骨下動脈肋間動脈 胸髄頚髄内腸骨動脈 腰髄遠位側大動脈灌流