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p.128 抽出テキスト

前脊髄動脈は,発生学的には分節動脈由来の前神経根動脈anterior radicular arteryが吻合したものであり1463),癒合過程で前神経根動脈の多くが退縮するため,残存する神経根髄質動脈radiculomedullary artery(前神経根動脈のうち脊髄に至るもの)は平均6~8本となる1462, 1463).前脊髄動脈の太さは,T4レベルより尾側から細くなり,後述のAdamkiewicz動脈合流部より尾側から太くなる1462, 1464).このため胸髄レベルは虚血に弱い(critical zone 1462, 1464)).したがって,長時間単純遮断などによる重篤な脊髄虚血で, T4レベル付近からの対麻痺が生じる.

頚髄・T1~T2胸髄では,前神経根動脈は鎖骨下動脈系(椎骨動脈,肋頚動脈幹–深頚動脈・最上肋間動脈,甲状頚動脈幹–上行頚動脈),ときに外頚動脈系の上行咽頭動脈から分岐する1462–1464).このため,左鎖骨下動脈の灌流・温存は脊髄保護に重要となる.

胸髄・腰髄レベルでは,前神経根動脈は分節動脈(第3肋間~第4腰動脈)に由来するが,このうち1~2本が神経根髄質動脈となる1462, 1464).このうち,下部胸髄・上部腰髄レベルに存在する最も太くて重要なものをAdamkiewicz動脈と称する.これはT9~T12から3/4,左側から3/4が起始する1462).分節動脈由来の神経根髄質動脈は特徴的なヘアピンカーブを呈するが,これは,1脊椎骨と脊髄の成長の差により,脊柱管内で一度上行すること,2神経根髄質動脈合流部頭側の前脊髄動脈は細径となるため,動脈は尾側へ連続する形態をとることによる.このため, Adamkiewicz動脈を介する血流は主に腰髄に分布し,下部胸髄血流への関与はきわめて少ない1464).分節動脈は脊柱管内外で上下・左右の吻合を形成する.解剖学的には,椎体外の吻合は縦方向が優勢であるが,脊柱管内・硬膜

外の吻合は横方向が優勢である1463).この豊富なネットワークの存在により,Adamkiewicz動脈を分岐する分節動脈1本を閉塞しても,ほとんどの場合SCIは発生しない.これは1970年代初頭からalternative pathwayとして知られている事実である1464).

仙骨レベルでは分節動脈は外側・正中仙骨動脈lateral & median sacral arteryなどに再構築され,第5腰動脈は正中仙骨動脈や腸腰動脈iliolumbar arteryから分岐する1463).脊髄血流に最も重要なのは外側仙骨動脈で,馬尾から脊髄円錐部にかけての血流供給源となる1462, 1464).このため,脊髄血流にとって内腸骨動脈血流は重要である.

2.2 虚血性脊髄障害の病態

2.2.1 即時性障害と遅発性障害

虚血性SCIは即時性と遅発性がある.即時性障害は術中の脊髄虚血により脊髄が不可逆的な障害をきたすものである.塞栓など永続性の虚血によっても生じるが,一過性虚血であっても許容時間を超えると不可逆的障害をきたす.虚血許容時間は,実験的には常温で5~10分程度と考えられるが,臨床的には側副血流の存在のため虚血の程度に差があり,かつ脊髄温度を知ることも困難である.また,側副血流の存在のため,分節動脈非再建=永続性虚血ではない.

遅発性障害の要因としては,術後の栄養動脈閉塞(再建動脈の閉塞,解離における偽腔血栓化進行に伴う閉塞など)や,術後の脊髄浮腫に伴う髄腔圧上昇1465)や血行動態悪化に伴う脊髄灌流圧低下などが挙げられてきた1462).後者の病態は,手術により側副血流依存で障害発生のボーダーラインまで低下していた脊髄血流量が,術後の血行動態悪化で障害発生レベルまでさらに低下することと考えられる.実験的には,分節動脈全閉鎖後の側副血行路の血流予備能は術後72時間程度まで不十分であり1466),術後の血流需要増に見合わないことが示されている.臨床的にも,遅発性障害は分節動脈を再建しない術式1467)やTEVAR 679)に多く,これら術式のSCIに占める遅発性障害の率は80%を超えるとの報告もある679, 1467).その対策として,分節動脈非再建の場合には術後3日間,高血圧管理+脳脊髄液ドレナージを持続することが推奨されている1466, 1468, 1469).実験的には,遅発性障害は術中虚血によるアポトーシス1470)や再灌流障害などにより生じている可能性があり,薬理学的脊髄保護のターゲットとなっている.

図65 脊髄動脈支配の解剖学的特徴

Adamkiewicz 動脈

椎骨動脈

(胸部神経根髄質動脈)

頚部神経根髄質動脈

硬膜外アーケード

外側仙骨動脈