p.122 抽出テキスト
換術と同様の配慮に加え,脊髄保護と腹部臓器保護が重要となる.脊髄虚血に関しては,脊髄栄養動脈の同定,電気生理学的モニタリング,薬理学的保護に加え,collateral network concept(P. 129を参照)に基づく遠位側大動脈灌流,分節動脈盗血の防止と灌流,脳脊髄液ドレナージ,高血圧管理が行われている.脊髄栄養動脈非再建に伴う遅発性SCIのリスクを下げるため,分節動脈再建が好まれるが,詳細は第7章の「2.3. 脊髄保護法」(P. 130~)を参照されたい.なお,低体温は脊髄虚血許容時間を延長するため,硬膜外アーケードを介する側副血流を期待できる小範囲分節遮断下の分節動脈再建が不可能な場合など,脊髄保護目的にも超低体温法は選択されている. 腹部主要分枝動脈の再建時は,腹腔動脈と上腸間膜動脈は選択的灌流,左右腎動脈は選択的灌流または4°Cの乳酸リンゲル液の灌流1412)にて臓器保護を行う.Custodiol®液灌流の有効性も検討されている.超低体温法を用いる際には,必ずしも灌流は必要ない.なお,腎血流には自動調節能があるため,ポンプによる単独強制灌流は低流量(150 ~200 mL/片側)としても高圧灌流による腎障害のリスクが高い.選択的灌流を行う場合には,腹腔動脈や上腸間膜動脈,あるいは腸骨動脈といっしょにして,逃げ道を設けることが重要である. c. frozen elephant trunk(FET) 弓部大動脈が拡張し,下行大動脈遠位の拡張が著明ではない場合や,拡張・瘤化以外の慢性期合併症に対して選択されることがある.通常の弓部大動脈置換術と同様の方法で全弓部置換術を行い,末梢の真腔にFETを挿入する.挿入長が長いとSCIが危惧されるため,T8より中枢までに留めるが,短すぎると遠位端が下行大動脈屈曲部にあたり,stent graft-induced new entry(SINE)を惹起するリスクが高まる.ステントグラフト径も,遠位側SINE回避のため,留置部遠位端の真腔径に基づき,オーバーサイズ比を低めにするようにサイズを選択することが推奨される.遠位側大動脈吻合部は,弓部拡大例では拡張部分の末梢に求める場合が多いが,その他の適応では,鎖骨下動脈より中枢側に求めることもできる.ステントがない部分を過長にすると,同部位が屈曲やキンクなどで狭窄となることがあるので注意を要する. d. 腹部大動脈置換術 腎動脈下腹部大動脈のみが拡張した場合,通常のAAAと同様の手術が実施される.この場合,re-entry閉鎖によるmalperfusion誘発を回避するため,中枢側吻合部のフラップを切除・開窓し,両腔吻合とする必要がある. 準じた治療計画を立案する. 弓部大動脈へ解離が進展している症例や,弓部大動脈が拡張している症例,中枢側遮断を回避する選択をした場合には,超低体温循環停止法を用いる.脱血には大腿静脈経由右房脱血が頻用されるが,良好な脱血を得ることが肝要で,広い範囲に側孔を有するカニューラ先端を上大静脈に留置し,陰圧吸引補助脱血を用いるとよい.送血は真腔に連なる側の大腿動脈が頻用されるが,malperfusionやdebrisによる脳梗塞発生を危惧し,上行大動脈や腋窩動脈などを好む外科医も多い. 脳保護と心筋保護が不十分になりがちな術式であり,各種工夫がなされている.脳保護は基本的に低体温によるため,脳温を反映する脱血温(鼻咽頭温や鼓膜温でもよい)で18°C以下に冷却する.術野の制約があるが,選択的脳灌流の付加,バルビツレイトや抗痙攣薬ホスフェニトインの投与も行われる.虚血時間が30分程度であるため,心筋保護はこのレベルの低体温のみでも十分であるが,低体温のみでは心静止が得られない場合,循環停止直前に20 mEq程度のカリウムのボーラス投与や,循環停止後にバルーンカテーテルを介する順行性心筋保護液投与,術野によっては上行大動脈遮断による順行性心筋保護液投与も行われる.より重要なことは心室細動中の左室ベンティングであり,特に復温中の左室拡大は回避しなければならない. 弓部大動脈を開放下に中枢側大動脈を離断後,人工血管と吻合する.吻合終了後は十分に空気を押し出した後に,グラフト側枝から上半身灌流を1~1.5 L/minで再開する.復温中にグラフト末梢側吻合を行い,必要に応じて肋間動脈や左鎖骨下動脈を再建する. b. 胸腹部大動脈置換術 胸部下行大動脈から腹部大動脈までびまん性に拡大した症例が適応となる.Marfan症候群など遺伝的背景を有する症例も,遠隔期の解離部分の拡張が高率にみられるため,適応とすることが多い.手術死亡率と対麻痺の発症率が高く,特にCrawford II型の成績には課題を残す1408)が,近年は早期死亡率3.6~5.8%,対麻痺発生率2.6~6.0%, 5年生存率65~79%という良好な成績も報告されている1409, 1410).また遺伝的背景を有する疾患群では成績は比較的良好である1408).一方,段階的手術がSCI発生率を低下させることも報告されており1411),下流の拡大が中等度に留まる場合には下行大動脈置換術と胸腹部大動脈置換術の段階的手術も検討する.この場合,第2期手術待期中の破裂のリスクに加え,再開胸となる第2期手術のリスクを勘案し,慎重に決定する必要がある. 胸腹部大動脈置換術においては,(弓部)下行大動脈置