p.120 抽出テキスト
作が必要である. 置換範囲は大動脈径により決定されるが,SCI防止の観点からは段階的手術が有利と考えられる.ただし拡張部分を残すと破裂のリスクがあり,症例,病変ごとに慎重に判断する.一般に,遠位下行大動脈~腹部大動脈が40 mm程度以下の場合は置換の対象とせず,段階的手術とされることが多い.ただしMarfan症候群などの遺伝性大動脈疾患の場合,拡大速度が速く破裂のリスクが高いため,一期的な胸腹部大動脈置換の適応とされることが多い.段階的手術とした場合,末梢側を真腔のみへ吻合するか,両腔へ吻合するかに関しては議論のあるところであるが,腹部主要分枝が起始する腔や,その近傍のtearの位置や大きさ,脊髄栄養動脈が起始する部位や腔に応じて判断する. 腎動脈下腹部大動脈のみが単独で拡大する場合には, AAAの適応基準(50~55 mm)で介入するが,腎動脈レベルに非拡大部分が存在することが前提であり,一連の拡大の場合はTAAAに準じる. 3.2.2 血管内治療 従来,大動脈解離における慢性期の定義は発症後2週間以上であった.これに従うと,preemptive TEVARの多くは慢性期に施行されているが,長期的な予後の改善について検討される中で,おおむね6ヵ月から1年以内に行われるのが好ましいと考えられるようになった.そのため,慢性期の他に亜急性期や慢性早期といった概念が提唱されている.ここでは,外科手術と同様に,すでに瘤化した慢性B型解離に対する破裂防止のためのTEVARについて論じ,従来の定義による発症後2週間以上の時期に行ったpreemptive TEVARについては他項に譲る(本章の「3.1.3.b. 血管内治療」,P. 116を参照). 大動脈解離に対するTEVARの手技自体は大動脈瘤に対するものと大差ない.閉鎖すべきentryの前後でステントグラフト(SG)が大動脈壁に十分に圧着固定されるlanding zoneが必要で,圧着固定が不十分であれば,血液が隙間を通りentryに流入してしまう(type Iaエンドリーク).中枢側landing zoneについては,Gore社のcTAG ®では「主要なentryから中枢側に20 mm以上」とされているが,Cook社のZenith ®大動脈解離用では「entryの近位に解離していない大動脈部分が20 mm以上」とされている.一方,末梢側landing zoneの長さは規定されていない. 慢性大動脈解離に対するTEVARにおいては,下行大動脈の真腔が狭小化していることも多く,中枢側と末梢側で異なる径のSGを必要とすることが多い.中枢側に比べて末梢側が5~10 mm細いテーパー型のSGを用いたり,末梢側にあらかじめ細径のSGを留置してから,その内部に TEVARのほうが低い1358).したがって,外科手術よりもTEVARにおいて早期の介入を推奨する根拠は希薄である. 2013年の欧州のExpert Consensusでは,complicated B型解離を急性期と慢性期に分け,慢性期(chronic complicated)にもTEVAR(解剖学的に不適であれば外科手術)を推奨した1358).ここでのcomplicatedの定義は,症状の再発,拡大・瘤化(>55 mm),年間4 mmを超える拡大である.しかし,上記の考察を踏まえると,これら慢性期合併症に対する侵襲的治療(外科手術,TEVAR)介入には慎重になる必要がある.実際,chronic complicatedという概念は2014年欧州ガイドラインでも踏襲されているが,治療介入基準はTEVAR,外科手術の区別なく最大径60 mm,年間10 mm以上の拡大に修正されている96).以上を総合すると,慢性B型解離の拡大・瘤化に対する侵襲的治療介入の閾値は60 mmが妥当と考えられる. 亜急性期を過ぎたB型解離に対するpreemptive TEVARについては,本章の「3.1.3.-b. 血管内治療」(P. 116)を参照のこと. b. 術式 拡大・瘤化した慢性B型解離においても,ULP型やDeBakey IIIa型では,非解離性大動脈瘤と同様にTEVARの治療効果が期待できる.一方,慢性DeBakey IIIb型においては,TEVARによるentry閉鎖やステント骨格によるフラップ固定で瘤拡大の抑制効果を期待しうるのは,偽腔吹き上げ血流(re-entry flow)の影響が小さい遠位弓部~下行大動脈までである1286).したがって,より広い範囲が拡張した病変における治療の第一選択は外科手術で, TEVARの適応は外科手術が高リスクの症例に限られる.かかる症例にTEVARを実施する場合,偽腔吹き上げ血流に対するさまざまな追加治療が実施されている(次項「3.2.2血管内治療」を参照). 外科手術においては拡大部分を含む人工血管置換術が選択される.ほとんどの場合,これは左開胸の直達手術である.正中切開から可能なFET併用全弓部置換術は,拡大部分を置換しないことが多いため,治療効果はTEVARと同等と考えられる. 左開胸下手術における補助手段としては,低体温完全体外循環と部分体外循環もしくは左心バイパスによる遠位側大動脈灌流が選択される.慢性B型解離の半数強は弓部または近位下行大動脈の遮断が困難なため,完全体外循環・超低体温循環停止法を用いた近位側開放下血管吻合術の対象となる.一方,後者の補助手段下に弓部大動脈やその近傍に大動脈遮断を置くことも可能であるが,逆行性A型解離など,遮断に伴う大動脈損傷が危惧される.したがって,遮断時の血圧管理など,慎重な大動脈遮断操