p.115 抽出テキスト
iii. 手術の成績 2013年のJACC Interdisciplinary Expert Consensusにおける1529例の集計では,早期死亡17.5%(95%CI 15.6 ~19.6%),脳梗塞5.9%(95%CI 4.8~7.3%),SCI 3.3% (95%CI 2.4~4.5%)で,5年生存率は44~64.8%,5年大動脈イベント回避率は58.7~68%であった1358). e. 内科治療i. 初期診療 急性大動脈解離を疑う症状を認める患者を診察する場合には,素早く身体所見,バイタルサインをとり,早急に画像診断を行う必要がある.必ず両側上下肢の血圧を測定し,解離ならびにmalperfusion発見のきっかけをつかむ.急性B型解離はA型解離よりも発症時血圧が高値であることが多く68, 1359–1361),血圧が高く疼痛が強い場合は,直ちに静注薬にて降圧と鎮痛を図りながら,すみやかに心エコー検査を行い,CT検査室に移動して画像診断を行う.用いる静注薬は,反射性頻脈の発生に注意した選択が必要で, β 遮断薬や非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬(ベラパミル,ジルチアゼムなど)などとなる. complicated急性B型解離の場合には,緊急TEVARまたは人工血管置換術が必要であり,両方が可能な専門施設での治療が必須となる.また,uncomplicated急性B型解離の場合においても,内科治療の経過中にcomplicated typeに転じる場合があり,同様の施設での管理が望ましい. ii. 診断後の初期治療 complicated急性B型解離と判明後,直ちに侵襲的治療(人工血管置換術よりもTEVAR優先)の準備に入る.侵襲的治療が困難か,または患者が拒絶した場合は,降圧を中心とした内科(保存的)治療を継続する.いずれにしても,診断確定後,侵襲的治療の待機中,動脈ラインと末梢静脈ラインの確保に続き,急変に備え中心静脈ラインの確保を行う.大腿動静脈にシースを挿入し,経皮的心肺補助(PCPS)に備える準備があってもよい. 命に関わる状態の症例を除いたcomplicated症例における内科治療の成績は,急性期死亡率23.2~35.6%と報告されている1271, 1362). ii. 破裂・切迫破裂 complicated急性B型解離に対する治療成績の報告の多くは,malperfusionと(切迫)破裂を併せて対象としており,破裂のみを対象とした研究はきわめて少ない.このような現状においても緊急TEVARが推奨されている背景には,外科手術の成績不良がある. IRADのデータでは外科手術後の死亡率は50%に及ぶのに対し1312),SVSのOutcome Committeeの集計で破裂に対するTEVAR後の30日死亡率は17%で1313),フランスの2施設からの報告でも16%である1273).しかしTEVARでは,一度止血された後の再破裂例もあり,活動性出血例は止血困難となる可能性がある.前述のSVSの集計でも1年死亡率は42%であり,その多くは3ヵ月以内と報告されている1313).本邦からの報告でも,TEVAR後の早期成績は院内死亡率0~55%とばらつきが大きく1355, 1356),院内死亡なしとする報告においても1年生存率は71%で,外科手術の86%と差を認めなかった1356).すなわち,切迫破裂を除いた純粋な破裂に関するかぎり,TEVARの外科手術に対する優位性は十分に確立されておらず,外科手術は現在でも重要な選択肢であることに変わりはない. 外膜破綻部位を直接修復できることが外科手術のTEVARに対する最大の利点である.したがって,多くの場合,左開胸直達手術が選択される.complicated急性B型解離に対するFET手術の報告でも,破裂は主たる対象ではない1316, 1357). 左開胸手術の補助手段としては,超低体温循環停止法と遠位側大動脈灌流法がある.前者は解離の中枢側進展により,Zone 2以遠での中枢側大動脈遮断が困難・不可能・高リスクの場合に選択される傾向にある.特に急性解離であれば,解離した大動脈の遮断は回避すべき手技である.活動性出血例に対する外科手術では,開胸前に体外循環を確立し,開胸後すみやかに破裂部位を確認できれば,用手圧迫で冷却を続けることができる.なお,右胸腔や後縦隔への活動性出血がありうるので注意を要する.IRADデータでは,超低体温循環停止は急性B型解離に対する外科手術の6割に用いられている1312).一方,遠位側大動脈灌流は遮断下手術が可能な場合に選択されるが,活動性出血例においては開胸後すみやかな大動脈遮断が必須である.このため,開胸前あるいは開胸操作と並行してカニュレーションが可能な大腿動静脈送脱血の部分体外循環が有利である.本法は大出血への対応や循環停止への変更が容易な点でも有利である.contained ruptureであっても,血腫部分の壁側胸膜切開は活動性出血を惹起する可能性があるため,大動脈剥離は血腫の周辺部位からはじめ,まず中枢遮断部位を確保する.