p.106 抽出テキスト
慢性A型解離症例はentryが大きいDeBakey II型が多く,このような症例では上行大動脈置換に加え,腕頭動脈,左総頚動脈再建を併施する部分弓部置換術を選択することが多い.上行大動脈に加え,弓部・下行大動脈に解離腔を認める症例では,広範囲な大動脈解離に対する手術戦略が必要となる.左開胸による一期的な上行・弓部・下行大動脈置換術は困難なため,手術を分割できない症例では,両側前方開胸や胸骨正中切開(+左開胸)から一期的に上行弓部~下行大動脈置換術を施行する1218, 1219). しかし一般的には,胸骨正中切開による弓部大動脈手術を初回手術とし,下行大動脈に対する手術を第2期手術とする段階的手術が行われる.初回手術では弓部大動脈置換術に加え,下行大動脈真腔に血流を誘導するETやFETが併施される1220).初回手術で下行大動脈の偽腔血栓化が進み遺残解離部位が縮小傾向にある症例は経過観察可能であるが,拡大傾向を示す症例では下行大動脈真腔へのTEVAR追加,または左開胸による下行・胸腹部大動脈置換術の適応となる.stent graft-induced new entryを発症する症例があり1221),注意深い経過観察が必要である. a. 吻合法 慢性大動脈解離では急性解離に比較して大動脈壁が強固であり,大動脈吻合は容易である.外膜は肥厚し,偽腔に対しても強固な吻合が可能となる.吻合法としては真腔,偽腔の両者に吻合するdouble barrel法と,血管形成を行い真腔のみに吻合する方法が用いられている.前者ではmalperfusionのリスクはないが,偽腔血栓化は期待できない.慢性A型解離の中枢側吻合はentry切除のために真腔への吻合となる.末梢側は下行大動脈真腔へ血流を誘導するために,偽腔閉鎖のための血管形成を行い,真腔にETやFETを挿入し,挿入したグラフトと一緒に血管吻合を行う方法が一般的である.吻合部位が拡大していると血管形成が困難なため,拡大の小さい部位が吻合部となり,上行大動脈が選択される症例もある.下行大動脈真腔が極度に圧迫されている症例ではETやFETは挿入が困難であり,末梢側吻合にdouble barrel法を用いる例や,解離フラップを切除して偽腔にETを挿入する例もある.下行大動脈真腔へのFET挿入ではstent graft-induced new entry発症のリスクが指摘されている1221).ステントグラフトのオーバーサイズや弓部屈曲部位への留置が危険因子として報告されている. b. 合併症 慢性B型解離の項(本章の「3.2.4.-f.手術例の慢性期管理における注意点」P. 123)を参照. 2.4 再手術 2.4.1 背景と疫学 急性A型大動脈解離ではentry(tear)の多くは上行大動脈に存在する.entry切除の原則から,手術は上行大動脈置換術,あるいは上行・弓部大動脈置換術が標準的術式となる.初回手術時に遠位側残存解離の行く末を考慮して(下行大動脈以下の偽腔消退を目指して)全弓部置換術を施行することの是非は,entryの部位,解離の範囲,施設や術者の経験などにより推奨度が異なり,いまなお議論の余地がある. a. 術後遠隔期合併症 大動脈弁吊り上げ術(解離した大動脈弁交連部の縫合固定)を中心に自己大動脈弁温存を基本とした大動脈修復術(冠動脈上部修復supra-coronary repair)後の大動脈弁閉鎖不全症,中枢側・末梢側大動脈の瘤化,縫合不全(仮性瘤),再解離・再開通などは再手術の原因となる. b. 残存解離部の瘤化 急性A型解離の多くを占めるDeBakey I型の場合,上行および弓部置換術を施行しても遠位部大動脈に解離が残存するため,遠隔期の残存解離の進展,拡大,偽腔血栓化などに対する注意が必要である.A型解離術後の遠位側残存偽腔の46~78%で開存の持続が認められている1222–1225).術後生存例で,かつ瘤径の拡大を認めないものは3年で75%,5年で59%,8年で43%と報告されている1226).拡大例に対しては,人工血管置換術またはステントグラフト内挿術(TEVAR/EVAR)などによる再手術を検討する必要がある. c. 再手術率 日本胸部外科学会からのJCVSDを基に集計された2016年の年次報告によれば,急性A型解離の再手術例の院内死亡率は7.9%である43).再手術の原因の80%以上が破裂,再解離,瘤の拡大などである1227–1229).初回手術後5,10, 15年における再手術回避率は94%,64%,35%との報告1229)がある一方,初回手術後(術式にかかわらず)の遠隔期再手術率は4~28%との報告1230)もある.急性A型解離に対する上行大動脈置換術後(大動脈弁修復が必要であった基部置換例を含む)592例のうち,104例で再手術を要し,再手術までの期間は5.2±5.3(0.1~29.3)年で,再手術の要因と再手術までの期間との間に関連はなかった1231)と報告されている.当然ではあるが,初回手術において上行大動脈置換術のみ施行された症例での再手術率が高い1232)(初回手術は慢性期,急性期の両方を含む).