p.104 抽出テキスト
時間以内)または準緊急手術(2~3日以内)を施行した結果,院内死亡率は7%と低く,5年生存率も90%と長期予後も良好であったと報告されている1031).本邦や韓国を中心に同様の報告が多くみられる1030, 1054–1056, 1197, 1201, 1202). これに対して欧米を中心に,A型偽腔閉塞型解離に対する内科治療の成績は不良なため,緊急手術が望ましいという意見が強い1049–1053, 1203–1205).2010年の米国合同委員会が作成した胸部大動脈疾患診療ガイドライン(AHA/ACCFガイドライン)では,A型偽腔閉塞型解離に対して,偽腔開存型解離と同様の治療,すなわち緊急手術を施行することが,クラスIIaとされている95, 1206).また,2014年に発表された欧州心臓病学会の大動脈疾患診療ガイドライン(ESCガイドライン)においても,緊急手術がクラスIとされている96).特に,偽腔閉塞型解離はmalperfusionが少ないため,手術成績が良好であることが報告されており1052),緊急手術を推奨する根拠となっている. ここで注意すべきことは,初期に内科治療を選択した場合,厳重な降圧治療(収縮期血圧≦120 mmHg,心拍数< 60回/分が望ましい)と画像診断による経過観察が必要なことである.内科治療を行った報告では,約30~40%の症例で解離の進行が認められ,手術を施行している1031, 1055, 1056).一方で,大動脈径が48 mm以上1207),50 mm以上1056, 1208), 55 mm以上1055),あるいは血栓化した偽腔径が11 mm以上1207),あるいは16 mm以上1055)の例は,内科治療中に解離が進行する率が高く,「高リスク群」と認識されている. 以上のことから,A型偽腔閉塞型解離の現時点での治療方針については,以下のように考えられる.まず,心筋虚血,大動脈弁閉鎖不全症,心タンポナーデの合併例は緊急手術の適応である.また,上行大動脈に明らかな血流を有する例は,ULP型へ移行したものと考えられるため,同じく早期の手術を考慮するべきである(注:このようなULPを有する例は,偽腔閉塞型として認識されることも多いが, ULPを有する例が予後不良であることが報告されていること1035, 1209, 1210)から,本邦のガイドラインでは偽腔閉塞型解離とは異なった病態としてとらえ,「ULP型」と定義していることに留意されたい).さらに,大動脈径が50 mm以上あるいは血腫の径が11 mm以上の例は高リスク群と考えられ,早期の手術が望ましいと思われるが,循環動態が安定していれば,必ずしも緊急手術は必要でなく,準緊急手術で対応可能と思われる.上記以外の症例では初期の内科治療が可能と思われるが,内科治療にあたっては,画像診断を頻回に施行して,経過を追うことが重要である.経過中,血栓化した偽腔の増大や上行大動脈の偽腔内に血流が生じた例(ULP型または偽腔開存型)には,早期の手術が推奨される.したがって,手術がいつでも可能である状況が望ましく,年齢や手術リスクを考慮のうえで,「大動脈チー ム」で手術適応を検討するべきである.早期の手術が望ましいとする議論があることも常に考慮に入れて,治療についての同意を得ることが望ましい. b. 胸部下行大動脈にtearを有するA型逆行解離 一般に,A型解離は上行大動脈内にtear(entry)が存在し,そこから解離が順行性に進行することが多いが,上行大動脈内にtearがなく,弓部や下行大動脈や腹部大動脈に存在するtearから逆行性に解離が進行する例がある.このような逆行解離例の中で,上行大動脈が完全に血栓化している症例では,保存的に血栓化した偽腔の退縮が期待でき,内科治療が可能である.Kajiらは,上行大動脈の偽腔が完全に血栓化した逆行解離の14例に内科治療を行い,5年生存率93%と良好な長期予後を報告している1211).また,上行大動脈の偽腔が完全に血栓化した逆行解離の16例に内科治療を行い,良好な成績が得られたという報告もみられる1212).したがって,上行大動脈の偽腔が完全に血栓化した症例では,画像診断を頻回に施行して血栓化した偽腔の増大や偽腔への新たな血流がないかに注意しながら経過を追うことによって,内科的に治療することが可能である. 内科治療を施行するにあたっては,上行大動脈にtearが存在しない逆行解離であることと,上行大動脈の偽腔が完全に血栓閉塞して偽腔内に血流を認めないことをMDCT検査あるいは経食道心エコー検査で確認しておく必要がある.上行大動脈の偽腔に血流を認めた場合(ULP型または偽腔開存型)は,偽腔の退縮は期待できず,内科治療は推奨されない. 2.3 慢性 2.3.1 大動脈基部,上行・弓部大動脈 慢性大動脈解離例では急性解離例と比較し,大動脈壁がより強固で大動脈吻合がより容易であり,かつ広範囲に偽腔が拡大瘤化していることが多く,大動脈置換範囲が拡大する傾向にある.体外循環の確立にあたり,慢性解離のために特別に留意しなければならない点もあり,症例に応じた手術戦略が必要となる. a. 体外循環確立と各種術式 安全な体外循環の確立が肝要であるが,順行性に流れていた血流が逆行性に流れた場合に,必ずしも臓器血流が保たれるとは限らない.通常,慢性A型解離では上行大動脈(真腔)送血は不可能なことが多く,送血部位として腋窩動脈1213, 1214),大腿動脈,心尖部1215)などが選択される.症例に応じた送血部位の慎重な決定が重要である.また,