p.103 抽出テキスト
ていても,有意な腸管虚血が起こっていることもある1178).開腹あるいは腹腔鏡で直接,腸管の色調を確認するのがより確実だが1179, 1180),血行動態が不安定な状況では大動脈手術を優先せざるをえない場合もある.また,小開腹や腹腔鏡では,限局性の腸管壊死が見逃されるおそれもある210).完全な壊死に至っていない段階では,視診でも判別が困難なことがあるが,ICG(インドシアニングリーン)造影検査が有用であるとの報告もある1181). 迅速,簡便に施行できるエコー検査も選択肢の一つといえる.SMAは体表エコーで描出できることが多く,腸管蠕動の減弱も腸管虚血を疑う参考所見となる213, 1182).一方,十分な術前評価もないまま手術を開始した場合や,術中に新たにmalperfusionが発生した場合,あるいは非開腹症例で灌流回復を確認したい場合には,経食道心エコー検査が有用である(第3章の「3.6. エコー検査」P. 43~参照). SMAの真腔径が血管全体の半分以下であれば,腸管虚血を強く疑う所見である214, 215). iii. 腸管虚血の治療 侵襲的治療として,大伏在静脈を用いた開腹下のSMA血行再建術1183),SMAへのステント留置術1184),大動脈内の内膜フラップ開窓術1185)などがある.特に血管内治療の成績は従来の外科手術と同等かそれ以上とされ,主流になってきている1186).侵襲的治療において,大動脈手術(大動脈修復術),SMAの血行再建術,腸管切除術の優先順位が問題となるが,症例ごとに個別に決定する必要がある.心タンポナーデや他部位の重篤なmalperfusionがある場合や,腸管の虚血が高度でなければ,大動脈修復術を先行させる477, 1162, 1187).腸管壊死を最小限にすることが予後を改善すると考えられる場合には,SMAの再灌流を優先する477, 1136, 1188).両者とも急ぐ場合には,SMAの一時的選択的灌流をしながら大動脈修復術を行う方法もある1189, 1190).ハイブリッド手術室では大動脈修復術と血管内治療が部屋の移動なしに迅速にできるメリットがある1175, 1191). iv. 腎虚血 両側腎動脈がともに閉塞することはまれで,片側性が多い.大動脈修復術によるentry切除と大動脈再建を行って真腔優位の血流とすることにより,分枝灌流が再開する(dynamic obstruction)ことも多いが,再開しない症例もある.TEVARも含め大動脈修復術後も高度狭窄が残存する場合には,SMAのstatic obstructionに対しステント留置を行う. v. 下肢虚血 急性B型解離における下肢虚血の発生率の報告は5.7~ 30.0%とさまざまである.腹部大動脈置換術後の症例が急性B型解離を発症すると,75%と高率に下肢虚血をきたす479).下肢虚血合併例では院内死亡率が高いが1192),高率 に腸管虚血を合併し479, 1193),筋腎代謝症候群を併発しうることがその原因と思われる.したがって早期診断が重要であるが,診断は必ずしも容易ではない.急性動脈閉塞が疑われてFogartyカテーテルで血栓除去が行われたり1194),強い胸背部痛のため下肢痛がマスクされたりすることも多く,下肢のだるさ,知覚障害,運動障害が現れるのは15~ 20%と少ない479).下肢の運動障害はこの下肢虚血または脊髄虚血で起こり,約半数は両側発症である. 治療には外科手術と血管内治療があるが,合併している灌流障害も考慮する必要がある.腹部内臓虚血や腎虚血を合併している場合,腹腔動脈上や腎動脈上で大動脈を遮断してフラップを切除する外科的開窓術,下肢単独の片側虚血では大腿–大腿動脈バイパス術,両側虚血では腋窩–両側大腿動脈バイパス術が行われる.血管内治療としては, TEVARによるentry閉鎖,大動脈末梢側や腸骨動脈領域のステントグラフト留置,血管内開窓術(バルーンのみ,またはステントを留置するfunnel technique 1192))などが選択される. 下肢末梢の灌流評価にはドプラ血流計が用いられるが,近赤外線分光法で組織内局所酸素飽和度(rSO2)を測定する方法もある1195).灌流再開後には,筋腎代謝症候群とコンパートメント症候群に注意が必要である.前者に対しては,必要に応じて血液透析濾過により救命を図る1196).後者は,malperfusion発生の数時間後から筋肉の浮腫で筋膜内の圧が高まり,新たに筋隔内での血行障害を生じて筋壊死をきたすおそれがある.触診に加え筋膜内の圧を測定し,30 mmHg以上なら早急に筋膜切開を加え,コンパートメント症候群のさらなる悪化を防ぐ. 2.2.5 内科治療 a. A型偽腔閉塞型解離 A型偽腔閉塞型解離に対する治療指針には欧米とアジア諸国とで意見の違いがみられ,また,国内においても外科医と内科医で意見が異なることが多い. 韓国のSongらは,偽腔閉塞型は臨床上いくつかの点で偽腔開存型とは異なると報告している1030).すなわち,患者背景としてより高齢者が多く,また,大動脈弁閉鎖不全症や脳梗塞などの合併症が少なかった.また,内科治療で良好な成績が得られ,合併症のない(uncomplicated)症例に対しては初期的内科治療を推奨している1197).本邦でも,合併症のない症例に対して,初期には内科治療を施行している施設が少なからず存在する1198–1200).偽腔閉塞型解離に対しては原則内科治療を施行し,血栓化した偽腔が増大した例と偽腔開存型へ移行した例に対しては緊急(24