p.96 抽出テキスト
ショックなどの重篤な状況を生じうる.程度により無症状で,聴診での収縮期雑音や機械弁閉鎖音の鈍化,TTEでの弁開放制限やドプラ所見の異常で発見されることもある.診断はTTEでの圧較差増大および可動性の腫瘤を認めること,弁透視やCTなどでの弁葉の可動性低下などから,総合的に行う.血栓弁と同様に開放制限をきたす病態として,パンヌスがあげられる.血栓弁は抗凝固療法の治療経過が不良の場合,術後発症までの期間が短い場合,発症が比較的急激な場合などに疑われるが,血栓とパンヌスが合併することもあり両者の鑑別は難しい場合がある. 左心系機械弁における血栓弁の予後は不良であるため,血栓弁による症状が出現した場合の治療は,緊急の初期対応が求められる.低用量血栓溶解療法または緊急手術が選択される(推奨クラスI;表49).緊急手術の30日死亡率は全体で10~15%と高値であるが,NYHA心機能分類I/ II度の患者に限れば<5%であった730-734).2012年までの閉塞性の左心系機械弁血栓溶解療法の30日死亡率は8%で血行動態的成功は70%に認めたが,塞栓症・出血合併症は14%と高値であった733).一方,近年エコーガイド下での緩徐静注プロトコルを使用した低用量血栓溶解療法に関する研究が発表され,死亡率は2%未満で成功率は90%以上に認め,塞栓症・出血合併症ともに2%未満と報告された735, 736).またこのプロトコルでは,NYHA心機能分類III度の症状の強い症例や大きな血栓でも良好な結果であったとされた.ただし,手術か溶解療法にするべきかどうかは患者や施設ごとに判断されるべきである.低手術リスク例,血栓溶解の禁忌例,大きな血栓(>0.8 cm 2 や>10 mmな どの基準が用いられている),重症例(血行動態が不安定, NYHA心機能分類IV度),他の心臓手術を要する症例などでは手術が推奨される.一方,熟練した外科医がすぐに手術を行えない場合や,小さな血栓,血行動態の安定している症例などでは,血栓溶解療法が考慮される. 2.4 血栓弁以外の人工弁機能不全 (狭窄・逆流) 2.4.1 人工弁機能不全の定義と病態 従来,各種人工弁間の構造的相異に加えて,“人工弁機能不全”の定義そのものが報告ごとに異なっていたため,その頻度についても報告によりまちまちであった.このような状況を鑑み,人工弁不全の定義を共有する必要性が高まり,欧米より複数の声明が発表された528, 529, 712).いずれの定義でもSVD(Structural Valve Deterioration)はIE,弁周囲逆流,PPMとは明確に区別され,あくまでもSVDは人工弁弁尖の構造的異常を指すとされた.大動脈弁位生体弁機能不全に関しては欧州3学会共同声明528)の中で,SVDに加え,IE,血栓弁,人工弁周囲逆流などの非構造的人工弁変性などをまとめて人工弁機能障害(dysfunction)とし,そのうち臨床的影響をもつものを人工弁機能不全(failure)と定義した. 新しい定義では主に心エコーを中心とした狭窄・逆流の重症度分類を正しく評価すること,および症状の有無が重要となる. 機械弁はほぼ永久的に機能するが,時折血栓やパンヌス形成による弁機能不全が起こる.パンヌス形成は人工弁に用いられている材質に対してのさまざまな炎症反応が原因とされるが,パンヌスが足場となって血栓形成が惹起されることも報告されている.生体弁については,通常植込み後5~7年より弁尖の変性や石灰化による弁変性が始まる.その詳細な機序は明らかにされておらず,現時点で生体弁変性を予防する有用な薬物療法は確立されていない.生体弁の弁機能不全(劣化)の表現型としては,狭窄,閉鎖不全,両者の合併がそれぞれ1/3程度と報告されている.僧帽弁のほうがより早期に弁変性が起こりやすい傾向にある. 生体弁にはブタ大動脈弁の弁尖を使用したもの(CE弁, Mosaic 弁,EPIC 弁)とウシ心膜を使用したもの(Carpentier Edwards Perimount Magna弁)が主に用いられる.いわゆる外巻き弁であるTrifecta,Mitroflow,ステントレス弁のSOLO smart,sutureless弁のPerceval弁, 表49 人工弁機能不全に対する治療の推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 血栓弁左心系機械弁の血栓弁による症状が出現した場合の低用量血栓溶解療法または緊急手術I C弁狭窄・弁逆流心不全症状のある重症人工弁狭窄症に対する外科的再弁置換術I C心不全症状あるいは溶血をきたす重症人工弁逆流に対する外科的再弁置換術I C手術リスクの高い症例で,有症候性の重症大動脈弁位生体弁狭窄または重症大動脈弁位生体弁経弁逆流に対するカテーテル的valve-in-valve 術IIa C