p.93 抽出テキスト
血や梗塞イベントは機械弁で多いと報告されている. 実際の使用状況に関しては,年齢が高くなるに伴い生体弁の割合が高くなり,また近年,生体弁の割合が増えていることが英国から報告されている706).わが国においても2013~2014年JCVSDからのデータでは,50歳代では生体弁の割合が2割,60歳代では6割,70歳を超えると9割以上であった707). 2017年のAHA/ACCガイドラインのアップデートでは2),50歳以下を機械弁の選択,70歳以上を生体弁の選択としており,その間の年齢の患者に対しては個々に決定することとしている.一方2017年のESC/EACTSガイドラインでは,機械弁の選択を大動脈弁では60歳以下,僧帽弁では65歳以下,生体弁の選択を大動脈弁では65歳以上,僧帽弁では70歳以上としている.当ガイドラインはESC/EACTSと同様,大動脈弁では65歳以上で生体弁,60歳未満で機械弁,僧帽弁では70歳以上で生体弁, 65歳未満で機械弁を推奨する(推奨クラスIIa).医師はそれぞれの人工弁の長所・欠点を熟知したうえで年齢だけでなく,患者の希望(スポーツ希望等のライフスタイル,妊娠出産等),患者の合併疾患(出血性疾患,血栓塞栓症等),病院へのアクセス,服薬コンプライアンス等を考慮する.ワルファリンコントロールが十分に行える状況にない患者(服薬コンプライアンス,遠隔地)(推奨クラスI),妊娠出産希望の女性(推奨クラスIIa)には生体弁を推奨する.他の弁にすでに機械弁が用いられている場合は,機械弁を選択することが多いが,患者の年齢なども考えて最終的に判断する.また,十分なワルファリ ンコントロール下でも血栓弁を生じた機械弁患者の再手術には生体弁を推奨する(推奨クラスIIa).どの場合も,十分に患者に情報提供を行い,患者・家族・医師で話し合い,最終的には患者の判断にゆだねる(推奨クラスI) 2).今後TAVI弁の長期の耐久性,若年者に対する生体弁の耐久性の改善,また機械弁の長期の抗血栓性のデータが明らかになるに従い,人工弁の年齢カットオフは変化していく可能性がある.若年者に生体弁を選択したときには,第二,第三の介入をどのように行うのかについてある程度の予測を患者に伝えておくことも重要である. 透析患者に対する人工弁の選択は議論のあるところである.2006年ACC/AHA ガイドライン708)では,人工弁耐久性に注意する疾患として腎機能障害,特に維持透析下にある症例に対する弁置換術に言及している.生体弁では石灰化によるSVDが,機械弁では出血合併症が多いことが知られているが,最近の研究709, 710)では,両者の成績に差はなく,維持透析症例に生体弁を避ける必要はないとも報告されており,まだ結論は出ていない.個々の症例で話し合って決めるしかなく,今回のガイドラインでは,どちらかの弁を推奨するということはしない. 大動脈弁位の生体弁置換術後のSVDに対するカテーテル治療(valve-in-valve)が行われるようになり,今後,生体弁選択の時期がより若年化する可能性もある.また将来のvalve-in-valveの可能性をふまえて,初回SAVR時における弁の選択(サイズや種類)が重要になってくる. 2 人工弁置換術後症例の診断・治療・ フォローアップ 2.1 人工弁機能の評価とフォローアップ 人工弁置換を行うということは,新たに人工弁置換という病的状態になるということであり,定期的なフォローアップを必要とする. 2.1.1 基本的経過観察 すべての人工弁置換後症例は生涯にわたり経過観察され,人工弁機能不全や心機能低下,他の自己弁病変の進行を早期発見できるようにフォローする必要がある.したがって,症状がなくても,定期的なTTEによるフォローは必要である.術後フォローアップTTEは約30日以内にそして術後1年,その後は1年ごとに検査を行う528). 表46 人工弁の選択に関する推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 機械弁および生体弁の長所・欠点を患者に十分説明したうえでの,患者による最終的な人工弁選択I Cワルファリンが禁忌,またはワルファリンコントロールが十分に行える状況にない(服薬コンプライアンス,遠隔地)場合の生体弁の選択I C妊娠出産を希望する女性に対する生体弁の選択IIa C大動脈弁位では60 歳未満,僧帽弁位では65 歳未満に対する機械弁の選択IIa C大動脈弁位では65 歳以上,僧帽弁位では70 歳以上に対する生体弁の選択IIa C十分な抗凝固療法のコントロール下で生じた,機械弁血栓弁に対する再手術における生体弁の選択IIa C