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p.92 抽出テキスト

1 人工弁の種類と選択

人工弁には機械弁,生体弁がある.機械弁は耐久性に優れているが,生涯にわたり抗凝固療法が必須である.それに対して生体弁は抗凝固療法が必須ではない反面,耐久性の問題がある.耐久性は手術時の年齢に依存する.ただそれぞれの欠点を補うように進歩があり,また弁膜症に対するカテーテル弁置換術の出現と普及,さらにはわが国における高齢化,長寿化といった社会的状況もあり,人工弁の選択はよりさまざまな因子を考慮する必要があり,それらの情報を患者と共有しながら最終的には患者の意思にゆだねられる必要がある2, 3).

1.1 機械弁の種類と進歩

歴史的にはボール弁,傾斜ディスク弁などが使用されてきたが,現在使用されている機械弁はすべて2葉弁である.耐久性の面では生体弁に比し格段に優れている.しかしながら機械弁では一生抗凝固療法を続けないといけないということが最大の欠点である.そのため,ある一定の出血と血栓塞栓のリスクが伴い,その頻度は生体弁より高い.

機械弁の近年における進歩としては,血栓形成性の低いOn-X弁が挙げられる.血栓塞栓症のリスクが高い症例群における低用量(INR: 1.5~2.0)と標準(INR: 2.0~ 3.0)ワルファリン群のランダム比較試験では693),低用量群で有意に出血性合併症が少なく,一方,脳梗塞,死亡率は両群で同等であった.また,血栓塞栓症リスクの低い患者群における,2剤抗血小板療法と標準ワルファリンのランダム比較試験では,2剤抗血小板療法群で,血栓塞栓症と人工弁血栓の発生率が高かったため試験は中止された694). 1.2 生体弁の種類と進歩

生体弁にはウシ心膜弁とブタ弁がある.生体弁の長期予後に関する報告では408),60歳以上の症例において20年以上の耐久性が示された.ウシ心膜弁とブタ弁の血行動態を比較した研究は多くあり,その結果は総じてウシ心膜弁がブタ弁に比し,人工弁の圧較差が小さく,EOAが大きい695).しかしながら両者で左室心筋重量の減少度に差があることを示した研究は少なく,10年生存率も同等であった696).

ウシ心膜弁にはステントポストの内側に心膜がついている通常の内巻き弁と外側に心膜がついている外巻き弁がある.外巻き弁の特徴はその血行動態の優位性であるが697),10年以上の長期成績を示す報告はほとんどなく今後の研究がまたれる.また外巻き弁に対してTAVIでvalve-in-valveを行う場合は,その構造上,冠動脈口閉塞のリスクは内巻き弁より高いと考えられ,施行においては冠動脈口の弁輪からの距離や,バルサルバ洞の大きさ等を考慮することが重要である698).

生体弁の弁尖には,SVDを防ぐためさまざまな抗石灰化処理を施してあるが,最近,ウシ心膜弁に特殊な心膜を用いた生体弁が使用可能となった.心膜は固定処理時ならびに保存時に不安定なアルデヒドにさらされるが,それが体内でカルシウムと結合してしまう.その不安定なアルデヒドをキャッピング処理により恒久的にブロックする手法であり,動物実験では優れた抗石灰化効果が認められた699).臨床での成績はまだ少ないが700),特に若年者のSVD回避効果が期待される.

1.3 人工弁の選択(表46)

AVRにおける機械弁と生体弁の長期予後を比較した研究は複数みられる.若年者(報告により55歳以下~65歳以下)では,機械弁で有意に生存率が高いという結果がある701-703)一方,どの年齢層においても生存率に差はなかったとの報告もある704, 705).再手術は生体弁で多く,出

第11章 人工弁置換術後