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p.77 抽出テキスト

5 外科治療

5.1 術式と成績

TRに対する外科治療は弁形成術もしくは人工弁置換術である.TRの病因の多くは二次性TRであり,その病態は1三尖弁輪が後尖・前尖を中心に外側に拡大すること,2三尖弁の立体的な構造が平坦化すること,3右室拡大に伴う三尖弁テザリングが発生することである.したがって,多くの症例は三尖弁輪縫縮術で対応可能である.しかしながら弁尖の変形や破壊が著明な症例や,右室拡大が顕著で高度な弁輪拡大・高度テザリングを有する症例においては,症例に応じて弁形成術または人工弁置換術が選択される584).日本胸部外科学会の2016年1年間の全国心臓手術統計によれば175),後天性弁膜症に対する総手術19,820人中,三尖弁に対する手術は5,512人(23.7%)に施行された.内訳は単独三尖弁手術が303人(形成術:240,弁置換:63),左心系手術と同時施行された三尖弁手術が5,209人(形成術:5,160,弁置換:49)であった.三尖弁単独手術では79.2%の症例に弁輪縫縮術を含む弁形成術が施行され,左心系手術時に施行された三尖弁手術では99.0%の症例に弁輪縫縮術を含む弁形成術が行われた.

5.1.1 三尖弁輪縫縮術

歴史的には後尖すべてを縫縮して前尖と中隔尖の二尖化を図るKay法に代表されるannular plication 585) や後尖と前尖の弁輪を巾着縫合して縫縮するDeVega法に代表されるsemicircular annuloplasty 586) などのsuture annuloplastyが行われてきた.suture annuloplastyは容易であり短時間で行えるが再発率が高いとする報告が多く587-589),近年では弁輪形態の安定化・弁輪縫縮を目的に人工リングを弁輪に縫着するring annuloplastyが三尖弁輪縫縮術の主体である.人工リングは三尖弁輪を生理的な収縮期立体構造へ近づけるセミリジッドのpartial ringと三尖弁輪の生理的な構造と心周期に応じた弁輪変形への追従性を保持するflexible bandが用いられる.立体構造を有するセミリジッドのpartial ringには弁輪縫縮効果に加え弁輪の収縮期3D構造維持効果が期待されることからflexible bandとくらべ信頼性が高いとの報告もあるが588),大規模な報告は存在しない.一方,flexible bandは人工リング離開や破損が少ないとの利点を有すると報告されている590, 591).

Ring annuloplastyの術後,中等症以上のTR再発率は5年で約10%と報告されており,suture annuloplastyによる発症率20~35%と比較して良好な結果である588, 589, 592, 593). 15編の研究論文を用いたメタ解析においては,生命予後に有意差は認めなかったが,中等症以上のTR回避率は15年でring annuloplastyは78.9%,suture annuloplastyは60.0%であった594).また,術後遠隔期TR発症の危険因子として,術前TRの重症度,大きな三尖弁輪径, 10mm以上の高度テザリング,心房細動, MVR,低左室機能,経静脈ペースメーカーリードが報告されている588, 589, 595).

5.1.2 三尖弁形成術

高度テザリングを有する症例や,弁尖の接合がまったく得られていないような症例では,右室拡大,機能低下を合併する症例が多く,弁輪縫縮術のみでは術後再発のリスクが高い.そのような症例に対し,弁輪縫縮術に加え自己心膜や異種心膜にて弁尖をパッチ拡大することにより弁尖の可動性を維持して弁接合を改善させるleaflet augmentation 596, 597) や,3つの弁尖端の中央を縫合することで三弁口化するClover technique(edge-to-edge法) 598, 599) などの弁形成術の有用性が報告されている.また,右室拡大,高度テザリングを有する症例に対して,人工弁輪縫着時にテザリングの改善を目的とした右室乳頭筋や弁下組織に対する追加手術手技としてSpiral suspension法600),乳頭筋接合術601)などの有用性も報告されている.しかしながら,いずれの術式も個々の症例を応じて施行されており,その長期成績や耐久性についてはいまだ不明である.

5.1.3 三尖弁置換術

人工弁置換術が行われた症例は,三尖弁輪縫縮術症例よりも右室機能の回復が悪く予後不良と報告されており602) ,TR制御のための安易な人工弁置換術の選択は推奨されないものの,人工弁置換術と三尖弁輪縫縮術の早期・遠隔期成績に差はなく同等であったとする文献もみられる603).三尖弁形成術では逆流の遺残が予測される症例や,弁尖の高度変性,破壊のある症例では,弁置換術の適応となる.人工弁選択において一般的に機械弁では血栓弁と抗凝固療法による出血リスクが,生体弁では長期耐久性が問題となる.わが国では機械弁のリスク回避から生体弁が選択される傾向にあり,2016年の統計では三尖弁置換術112人中100人(89.2%)に生体弁が用いられているが175),早期および遠隔期予後から優劣はつけら