p.72 抽出テキスト
重症 ASでは無症状でLVEFが保たれていても早期手術を行った方が予後が良好であるという報告が多い556, 557). これらの報告をふまえてAHA/ACCガイドラインではVmax 5.0 m/秒以上,mPG 60 mmHg以上で手術リスクが低い症例に対して推奨クラスIIaで手術を勧めており1),ESC/EACTSガイドラインではVmax 5.5 m/秒超,弁の石灰化が顕著でVmaxの年間進行度が0.3 m/秒以上,BNPが顕著に上昇している例(ただしカットオフ値は確立されていない),肺動脈収縮期圧が60 mmHg以上の肺高血圧例で手術リスクが低い症例に対しては推奨クラスIIaで手術を勧めている3).なおAHA/ ACCガイドラインではVmaxの年間進行度が0.3 m/秒以上は推奨クラスIIbに分類され,肺動脈収縮期圧が60 mmHg以上の肺高血圧例については推奨の記載がない.また欧米のガイドラインでは超重症ASの基準が異なっ ており,AHA/ACCガイドラインではVmax 5.0 m/秒以上1),ESC/EACTSガイドラインではVmax 5.5 m/秒超となっている3).BohbotらはVmaxが4.0 m/秒以上, LVEFが50%以上の無症状ないし極軽度の症状にとどまる558人を検討し,Vmaxが5.0 m/秒未満群と5.0 m/秒以上群では生存率に有意な差を認めたが,Vmaxが5.0~5.49 m/秒群と5.5 m/秒以上群の間には差を認めなかったと報告している558). 以上より,わが国での検討も加味して,本ガイドラインではVmax≧5.0 m/秒,mPG≧60 mmHg,AVA <0.6 cm 2を超重症ASとし,これらのいずれかを満たし手術リスクが低い場合には無症状であっても手術を勧めるものとする. 第6章 三尖弁閉鎖不全症/ 三尖弁逆流症(TR) あらゆる心疾患において,TRは予後規定因子となることが報告されており559-561),TRを評価することの重要性は増している. 1 分類と病因 TRは,一次性(器質性)と二次性(機能性)に分けられ,二次性TRが70~90%を占める562-566). 1.1 一次性TR(器質性TR) 三尖弁尖および弁下組織自体の変化によるTRである.病因としては,IE,外傷性,医原性(ペースメーカ/植込み型除細動器植込み後,右室心筋生検後など),リウマチ性,粘液腫変化による逸脱,エプスタイン病などの先天性三尖弁病変,カルチノイド,放射線照射などが挙げられる. 1.2 二次性TR(機能性TR) 右室に対する圧負荷または容量負荷による右室拡大,心房細動による右房の拡大,または右室心筋自体の障害などで,三尖弁輪拡大や三尖弁のテザリングが生じ,その結果,三尖弁尖の接合(coaptation)が悪くなることにより生じる. 右室に対する圧負荷を生じる疾患としては,左心系心疾患に伴う肺高血圧(post-capillary PH)が最も多く,肺動脈性肺高血圧や肺性心(pre-capillary PH)でも生じる.右室に対する容量負荷を生じる代表疾患としては,心房中隔欠損症が挙げられる.高齢化に伴い心房細動の患者が増加する中で,心房細動による弁輪拡大が二次性TRの重要な原因となっている562, 567-569).左心系弁膜症手術後(主には僧帽弁)慢性期に,左心系弁膜症には問題がないにもかかわらず,TRのみが出現または増悪する病態が知られており,心房細動や術前の血行動態が関与していると考えられている570-573).