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p.68 抽出テキスト

5.3 外科治療・カテーテル治療の適応と時期 (表32,図17)

5.3.1 有症候性重症ASに対する適応

重症ASと診断され,症状のある症例に対しては,臨床的手術禁忌をもつ場合や予測予後が1年未満でなければ,手術が推奨される(推奨クラスI).狭心症,呼吸困難,失神を呈するAS症例の生命予後は不良であり530),手術介入により症状や生命予後,運動耐容能の改善が見込まれる356, 408, 530, 531).また,LVEF低下の原因は後負荷上昇であり,狭窄解除により改善が期待できる.後負荷上昇が原因でないLVEF低下症例でも,手術介入により生命予後の改善は期待できる531).有症候性ASは突然死のリスクもあり,症状出現時はすみやかな手術介入が必要である.

重症ASに対するSAVRは,治療のゴールドスタンダードであり,手術リスクの低い若年の症例には第一選択で,良好な長期予後も報告されている356, 408).一方で2002年からのTAVIの臨床応用に伴い,SAVRとTAVIのどちらを選択するかについても考慮する必要がでてきた.当初は高齢の高リスク症例に限定されていたが,デバイスの改良や手技の成熟とともに年々適応が拡がっている3, 234, 530).2016~2017年には中等度リスク患者におけるTAVIとSAVRのランダム化比較試験が2つのデバイスで発表され,生命予後においてTAVIのSAVRに対する優越性,もしくは非劣性が証明された517-519).

2019年には低リスク患者におけるTAVIとSAVRのRCTがやはり2つのデバイスで発表され,死亡,脳梗塞,心不全再入院などの複合エンドポイントにおいて,TAVIのSAVRに対する優越性,もしくは非劣性が証明された520, 521).わが国における単独SAVRの30日死亡率は1.9%,再手術群では5.0%と大変良好な成績が得られている175).また,わが国ではTAVIは,より高齢で,再手術の患者などを含むリスクの高い患者を対象に行われているにも関わらず,30日死亡率2%以下とさらに良好な成績が報告されている523, 524).

一方,現在のTAVIにおける課題は,10年を超える生体弁の耐久性データが不足していることであり,それに基づきESC/EACTSガイドラインでは適応年齢の目安を75歳としている.また,前述の低リスク患者における2つの試験では平均年齢は73~74歳となっている.わが国では欧米とくらべ,平均寿命が3~5歳長く,また75歳以上の高齢者の平均余命は1~2歳長いことが知られている.

SAVRかTAVIかの選択は,年齢,個々の外科弁・TAVI弁の耐久性データ,SAVR手技リスク(STS score, EuroSCORE,Japan SCOREなど),TAVI手技リスク,解剖学的特徴,併存疾患,フレイル408, 530, 518),同時に必要な手技を鑑み(表33),すべてのAS患者に対しSAVR, TAVI両方の治療について十分な最新の情報に基づく正しいインフォームドコンセントがなされた上で,個々の患者の価値観や希望も加味した上で3),最終的には弁膜症チームでの議論を経て決定されるべきである.非常に多くの考慮すべき要素があり,かつ確固たるエビデンスが現時点ではないため,今回のガイドラインでは,TAVIかSAVRかの明確な年齢基準は決定しなかったが,優先的に考慮するおおまかな目安として,80歳以上はTAVI,75歳未満はSAVRとした.この領域はエビデンスが年々更新されるため,本ガイドラインにおいても適宜focused updateを行っていく必要がある.

表32 AS に対する手術適応の推奨とエビデンスレベル

推奨クラスエビデンス

レベル

有症候性重症AS 患者に対する手術介入I B無症候性重症AS を有し,心機能低下(LVEF <50%)を認める患者に対する手術介入I C無症候性重症AS を有し,他の開心術を施行する患者に対するSAVR I C無症候性重症AS を有し,運動負荷試験で症状を呈する患者に対する手術介入I C無症候性重症AS を有し,運動負荷試験で有意な血圧低下を呈する患者に対する手術介入IIa C無症候性超重症AS(Vmax ≧5m/ 秒, mPG ≧60 mmHg, またはAVA <0.6 cm2)を有し,低手術リスク* の患者に対する手術介入IIa B無症候性重症AS を有し,AS による著明な肺高血圧(収縮期血圧60 mmHg 以上)を認め,低手術リスク* の患者に対する手術介入IIa C無症候性重症AS を有し,急速に進行(V max 年0.3 m/ 秒以上増加)する低手術リスク* の患者に対する手術介入IIb C無症候性中等症AS を有し,他の開心術を施行する患者に対するSAVR** IIa C *  ここでの「低手術リスク」とは,解剖学的/患者背景をふまえて,その手技(SAVR・TAVI含む)が低リスクであることを意味する** 年齢や手術リスクを考慮して,弁膜症チームで議論した上で決定Vmax:大動脈弁最大血流速度