p.66 抽出テキスト
5 外科治療とカテーテル治療 5.1 外科治療の術式と成績 狭心症,心不全による呼吸困難,失神発作などを伴う有症候性の重症AS,左室機能低下を伴う一部の無症候性重症ASは,SAVRによって症状や生命予後の改善が期待できる. 5.1.1 縫着術式 ASに対するSAVRでは人工弁を挿入する弁口が狭い場合も多く,必要に応じて大きな人工弁を植え込むための術式の工夫がなされる.弁輪と人工弁が縫着される部分の位置関係から,sub-valvular,para-valvular,supravalvular implantationなどの縫着方法がある. a. Sub-valvular implantation 大動脈側から弁輪の左心室側にU字(mattress縫合)で縫合針を抜く方法で,人工弁は弁輪の下に縫着される(everting-mattress縫合).術者が縫合糸を確認しやすいというメリットがある一方,弁口に対してやや小さめの人工弁を選択せざるを得ないというデメリットがある. b. Para-valvular implantation 人工弁が弁輪上下に自由度をもって縫着される方法で,縫合糸を一本ずつ弁輪の上下に通し,心室側に出た針を人工弁輪の下から上に通して結紮する(単結節縫合).理論的に人工弁は弁輪と同じ高さに縫着されるが,やや大きめの弁を選択した場合には弁輪の上(supra-valvular position)に縫着することができる.結紮の本数が多いのがデメリットである. c. Supra-valvular implantation 奥の左心室側から弁輪の大動脈側にU字(mattress縫合)で縫合針を抜く方法で,人工弁が弁輪の上へ縫着される(non-everting-mattress縫合)ため,大きめの弁を選択することができる.しかし,縫着された人工弁の左室側に弁輪組織の一部が張り出すことを懸念する報告もあり,この場合には実際のEOAが予測されたものよりも小さくなる可能性がある495). 5.1.2 人工弁患者不適合(PPM)と弁輪拡大術 人工弁のサイズは,使用する人工弁のEOAをBSAで除したEOA index(EOAI)をもとに決定する.EOAIが0.85 cm 2/m 2 未満のものはPPMと定義され496),選択した 人工弁のEOAが体格に比して不十分な可能性がある. PPMが発生すると十分な後負荷の軽減が得られず,冠血流予備能が低下し,運動時の不整脈や反復性心不全の原因となる497).さらにPPMを有する症例は生体弁の石灰化が速く,早期に人工弁構造的劣化(structural valve deterioration: SVD)をきたしやすい497).PPMの発生と長期予後の関連性についてはこれまで5 つのメタ解析によって報告されており,重症PPM(EOAI<0.65 cm 2/m 2)は遠隔期死亡率や心不全入院の頻度を有意に上昇させることが明らかとなった498-501).中等症PPM(EOAI 0.65~ 0.85 cm 2/m 2)は心予備能が回復していない術後早期の死亡率や,低左心機能症例,若年者における遠隔期死亡率を上昇させる499, 500).PPMを回避するためには患者のBSAと人工弁のEOAを考慮する必要がある.現在広く使用されている第三世代ステント生体弁(ウシ心膜弁)の場合には,BSA 1.6 m 2未満の症例で19 mm以上,1.6 m 2以上1.8 m 2未満 で21 mm以上,1.8 m 2以上で23 mm以上のサイズの人工弁が必要となり502),十分なサイズの人工弁縫着が困難な狭小弁輪症例に対しては弁輪拡大術が考慮される.弁輪拡大術は大動脈切開線の一部を無冠尖弁輪まで延長し,切り込んだ部分の弁輪をパッチで拡大するものである503, 504). 解剖学的に僧帽弁輪と近接しているため拡大の程度が制限され,縫合線を僧帽弁輪よりも高くするための工夫が必要となる.症例によってはサイズアップされた人工弁のステント部分によって冠血流障害が生じる可能性もあり,このような場合にはパッチによる拡大を大動脈弁輪の直上まで延長することにより安全を期することができる. TAVIではソーイングカフをもたないlow profileの人工弁が用いられるため,SAVRとくらべてPPMの発生率が低い.狭小弁輪を有する高リスク症例において,TAVIはより安全で治療効果の高い選択肢となり得る175, 505). 5.1.3 手術成績と予後 2016年に日本胸部外科学会より報告されたわが国における大動脈弁単弁置換の周術期死亡率は,CABG併施症例を含めて3.1%であった175).2012年に成人心臓血管外科データベースをもとに算出された大動脈弁単弁置換の周術期死亡率は3.0 %(S AV R 単独 2.4 %, SAVR+CABG 5.4%)であった.同データベースにおける80歳以上の高齢者に対する大動脈弁単弁置換の周術期死亡率は5.2%(SAVR単独 4.6%,SAVR+CABG 7.1%)で,年齢に関係なく,透析,緊急手術,呼吸機能障害,術前のショックや不整脈,多枝冠動脈病変の合併などが