p.63 抽出テキスト
表30 心エコー検査によるAS 重症度評価 大動脈弁硬化軽症AS中等症AS重症AS超重症AS Vmax(m/秒) ≦2.5 2.6~2.9 3.0~3.9 ≧4.0 ≧5.0 mPG(mmHg) - <20 20~39 ≧40 ≧60 AVA(cm2) - >1.5 1.0~1.5 <1.0 <0.6 AVAI (cm2/m2) - >0.85 0.60~0.85 <0.6 - Velocity ratio - >0.50 0.25~0.50 <0.25 - AVAI:AVA index, Vmax:大動脈弁最大血流速度,Velocity ratio:左室流出路血流速と弁通過血流速の比 息切れを自覚するかなど,具体的に問いかけることが必要である.患者はしんどくならないように無意識に活動を制限していることが少なくない.その場合は「自覚症状無し」との返答になる可能性があり,有症候性の患者を無症候性と誤って判断することになるので注意を要する. 身体所見では頸部に放散する収縮期の駆出性雑音を聴取することが特徴的である.ただし心雑音の最強点は胸骨右縁第2肋間から心尖部まで,患者によって大きく異なる.II音の奇異性分裂,脈波の立ち上がりが遅い遅脈や鶏冠状の頸動脈波なども認める.なお,ASが進行して左室機能障害をきたし一回拍出量が低下すると収縮期雑音は小さくなるので,収縮期雑音の強弱で病態の重症度を判断するのは誤りである. 4.2 心エコー図検査 ASの診断と重症度評価は主に心エコー図検査で行う. TTEで弁の形態(弁尖の数,交連部癒着の有無),輝度上昇,石灰化の有無・分布・程度,開放程度を観察し,ASを示唆する所見があると考えられたら,ドプラ法を併用して重症度評価を行う(推奨クラスI).連続波ドプラ法によって大動脈弁最大血流速度,最大圧較差,mPGを求め,さらにパルスドプラ法により求めた左室流出路血流速も用いて連続の式によりAVAを計測する.弁通過血流速度や圧較差は簡便ではあるが血行動態の影響を受けて変化するので,重症度評価にはAVAもあわせて求める.弁口をトレースしてAVAを算出することもできるが,多くの場合石灰沈着のために正確なトレースは困難である.正確な流速の評価にはドプラビームが血流の方向と一致することが必要である.そのために心尖部アプローチ以外にも傍胸骨右縁アプローチ,上位肋間アプローチ,肋骨上窩アプローチなどを試み,最大流速が記録できるアプローチを選ぶ.特にS状中隔などのように上行大動脈と左室長軸の成す角が比較的鋭角(115度以下)の場合には,傍胸骨右縁アプローチで最大流速を記録できることが多 い478).左室機能,壁肥厚,大動脈近位部の拡大,合併弁疾患,肺高血圧の有無も確認する.二尖弁では大動脈病変(拡大,瘤,解離)を伴うことがあるので,可視範囲で大動脈の観察を行う.重症度評価を表30に示す37).これ以外にもvalvulo-arterial impedance やaortic valve resistanceなどの指標もあるが,ルーチンで計測されているわけではなく,ここでは詳細には触れない37). 連続の式に基づいて求められたAVAはカテーテル法で求められたAVAよりも小さくなる傾向にあり,この理由のひとつに圧回復現象(pressure recovery phenomenon)があるとされている.圧回復現象は狭窄部より遠位部で静水圧が回復する現象であり,理論的には弁口形態がオリフィス型でない場合や上行大動脈が小さく(30 mm未満)遠位部における乱流が著しくない場合に認められる.しかしASの大半を占める加齢変性によるASでは通常,弁口はオリフィス型と考えられ,かつ乱流も著しく圧回復現象の影響は少ない.圧回復現象を補正する式も提唱されており37),先天性ASの場合や,大動脈径が小さくドプラ法でのAVAが臨床病態を説明しがたいと考えられる場合に考慮するとよい.TTEの画質が不良で十分な評価ができない場合にはTEEが行われる(推奨クラスIIa).弁尖の枚数,弁形態,石灰沈着の分布,上行大動脈の拡大の評価などで有用である. 安静時の心エコー図指標のみでは重症度の評価が不十分な場合には負荷心エコー図検査を行う(推奨クラスIIa).運動負荷は症状の有無が不明確な重症ASに対し,症状の顕性化を意図して行われる.さらにmPGの上昇が20 mmHgを超える場合や肺高血圧(収縮期肺動脈圧60 mmHg超)が生じた場合には,その後の心血管イベントが多いと報告されている479).ドブタミン負荷心エコー図検査は,一回拍出量の低下のためAVAが小さいにもかかわらず有意な圧較差が発生しない病態(low flow,low gradient AS)において,それが真の重症ASに基づくもの