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p.51 抽出テキスト

2 病態と自然歴

慢性ARの特徴は,「左室に対する持続的な容量負荷」である.この慢性的な容量負荷に対して,左室は1拡張末期容量を増加させる,2左室コンプライアンスを増加させる(左室充満圧を増加させることなく容量負荷に対応するため)ことで呼応する.さらに,心拍出量の一部が低圧の左房に送られるMRとは対照的に,ARでは一回心拍出量のすべてが大動脈に駆出される.よって,容量負荷による一回心拍出量の増加に伴い,収縮期大動脈圧および平均大動脈圧が上昇するため,左室に対する後負荷(圧負荷)も増大する.この左室に対する「容量」ならびに「圧」負荷が同時に生じることが,慢性ARにおける血行力学の特徴である.すなわち,慢性AR患者は拡張末期容量ならびに収縮末期容量がともに増加する.さらに,後負荷の増加に伴い左室収縮期圧が上昇するが,左室壁も代償性に肥厚するため,左室にかかる収縮末期壁応力の上昇は軽減される(壁応力[wall stress]∝壁張力[内圧(圧負荷)×半径(容量負荷)]/壁厚).このため,長期間LVEFが保持される.したがって,これらの機序で血行動態が代償される間,慢性AR患者の大多数は「無症状」であり,この無症状の期間が長期に持続することが慢性ARの自然歴における特徴である.

しかし,代償期の間は「過剰な後負荷」,「前負荷に対する予備力」,「心筋肥大」のバランスの中で血行動態を維持しているが,長期間ARが続くことで,後負荷・前負荷に対する予備力が破綻し,後負荷不適合(afterload mismatch)によりLVEFの低下が始まる.慢性ARの自然歴において,この時点で初めて「症状」を自覚する患者が多いとされている.さらに進行すると,心筋障害が進行し,左室機能低下が不可逆性になる.

一方,急性ARの場合,慢性ARと異なり,拡張末期容量の増加(左室拡大)や左室コンプライアンスの増加を認めない段階で急激に逆流が生じるため,左室拡張末期圧は急速に上昇する.この結果,拡張期半ばで左室圧は左房圧を凌駕し,僧帽弁早期閉鎖やそれに続く拡張期MRを生じ,さらに著しい心拍出量低下を伴い,急激な重症肺水腫・心原性ショックを呈する. 3 重症度分類

ARの重症度は,軽症・中等症・重症に分類され,主にTTEを用いて評価される.TTEの中でも「定性」「半定量」「定量」評価があり,それぞれの結果を組み合わせて最終的に重症度を決定する.一方,指標間で結果が異なり,TTE単独での重症度決定が難しい場合は,TEE・心臓MRI・心臓カテーテル検査などの他のモダリティを組み合わせて総合的に判断する(表25).

TTEにおいて,最も頻用されるのは,ARジェットの大きさ(左室におけるジェット到達距離,ARジェットの幅)をカラードプラ法で評価する方法である.簡便で使いやすいが,偏位性ジェットの場合は評価が難しく過小評価する傾向にある.さらに,左室到達距離に関しては,拡張期血圧の影響を受けやすく一貫した評価が難しい.一方,半定量評価として,ARジェットの縮流部幅の計測が有用である.さらに,左室流出路の幅や面積と比較する方法もあるが,偏位性ジェットやジェットが複数ある場合は評価が難しい.定量評価法には,PISA 法とvolmetric法がある.ARにおけるPISA法は,複数ジェットだけでなく,大動脈弁の石灰化が強い症例などでは計測が難しいことが多い.一方,volumetric法もMRの存在や弁輪径の計測誤差により結果が大きく変わるため,各指標単独で重症度評価を決定することは望ましくない.

TTEの結果を捕足するために,他のモダリティの結果を組み合わせて重症度評価を決定することも重要である. TEEは,基本的には逆流の評価よりも大動脈弁形態を評価することに優れているが,ARの重症度に関しても3D画像を使用して縮流部幅/面積を計測することが可能である.さらに,心臓MRIにおける位相コントラスト(phasecontrast)法を使用することで,逆流率を算出できる.心臓カテーテル検査において大動脈造影を施行した際のSellers分類も,重症度決定に重要な所見となる.

4 診断

4.1 症状と身体所見

慢性の重症ARでは拡張期雑音と心尖拍動の外側変位,