p.49 抽出テキスト
MSは高率に心房細動を伴い,その場合は抗凝固療法が必須である.抗凝固療法は主にワルファリンで行い, INR 2~3を目標としてコントロールを行う.高齢の日本人においては,INR 1.6~2.6が至適レベルであるとする報告もある.中等症以上のMSに伴う心房細動に対して,いわゆるDOACを用いることのエビデンスはいまだ限定的であり推奨されない.洞調律を維持している場合も,塞栓症を繰り返している場合や左房内に血栓を認める場合は抗凝固薬の適応である.TEEにていわゆるもやもやエコーを認める場合や,左房径が50 mm以上あるいは左房容積係数が60 mL/m 2以上である場合にも抗凝固薬の使用を検討してもよい385, 386).重症MSがある状態では電気的除細動の洞調律維持の 効果は薄く,推奨されない.一方で,PTMCにより有効な弁口開大が得られ,心房細動が比較的最近の発症である場合や,左房径がそれほど大きくはない場合は,洞調律維持が期待できるため除細動を試みてもよい. 無症状の重症MSは年1回程度,中等症MSは1~2年に1回,軽症 MSは3~5年に1回程度の頻度で定期的に心エコーによるフォローを行う.PTMC後の患者は症状が改善していれば,症状の再発あるいは僧帽弁再狭窄の所見がない限り,無症状MS患者と同様の頻度でフォローを行う.PTMC不成功の場合は,禁忌がない限り,可及的すみやかに外科手術を選択すべきである. 1 分類と病因 1.1 弁性と基部拡大 ARは先天性または後天性の何らかの異常により,大動脈弁尖間の接合が障害されて逆流が生じる状態である.その機序としてはリウマチ性や加齢変性のように弁自体に器質的変化をきたしている場合と,弁そのものに変化がなくても上行大動脈が拡大しているために弁尖間の接合が浅くなって逆流を生じる場合がある(表24) 33).心室中隔欠損症に伴うARは,漏斗部心室中隔欠損症で生下時に大動脈弁に異常がなくても次第に右冠尖が欠損孔に嵌入し,その結果,弁尖が逸脱して閉鎖不全症を生じるものを指す.漏斗部心室中隔欠損症は東洋人に多いとされ,ARの原因として知っておく必要がある.頻度は低いが,膜様部心室中隔欠損症でもみられる.弁尖逸脱は先天性二尖弁で認められるが,それ以外に粘液腫様変性,大動脈弁尖辺縁部にある窓様欠損孔(fenestration)の支持組織の断裂に伴うもの,弁尖と大動脈の間にまれに認 められる支持組織(fibrous strand)の断裂に伴うもの,限局性大動脈解離による後天的なものがあるため,これを後天性弁尖逸脱とした.なおfenestration ruptureもfibrous strand ruptureに含めている文献もある387). MRでは機能的弁複合体という考えに基づいたCarpentierの分類が知られているが,それにならってARでもtype Iからtype IIIに分類したものが提唱されている388, 389)(図13).Type Iは弁尖の動きは正常であるが,大動脈基部拡大または弁尖穿孔により逆流が生じたもので,さらにバルサルバ洞-上行大動脈移行部(sino-tubular junction: ST junction)より遠位部が拡大したtype Ia,バルサルバ洞とST junctionが拡大しているtype Ib,弁輪が拡張したtype Ic,弁尖が穿孔したtype Idに分けられる. Type Iaは動脈硬化病変でしばしば認められ,type Ibはマルファン症候群など,type Icは動脈硬化や大動脈弁輪部拡張症(annuloaortic ectasia),type IdはIEや外傷などで認められる.Type IIは弁尖逸脱に伴うもの,type IIIは先天的要因や変性などのため弁尖の肥厚,線維化,石灰化が生じ動きが制限されているものである.これらの分類は手術術式を想定して外科医によって作られたものである.詳細は 5. 外科治療の項「5.1 術式と成績」を参照されたい. 第4章 大動脈弁閉鎖不全症/ 大動脈弁逆流症(AR)