p.40 抽出テキスト
5.4 外科治療 5.4.1 術式と成績 本疾患への外科治療介入の有用性を示す論文はまだ少ないのが現状である137, 295, 306-308).MRが生じる機序が弁輪拡大に伴う接合不全であるため,弁輪拡大を矯正するために人工弁輪による弁輪縫縮が基本術式となる.心房細動に対するMaze手術や左心耳閉鎖,左房縫縮が同時手術として行われることがあるが,長期持続性心房細動を有してMaze手術の適応外となる場合も多い.弁輪形成術によってNYHA心機能分類が改善し,MRの改善に伴って左房が縮小137, 295)することが報告されている.永続性心房細動における巨大左房例では著明な弁輪拡大のために前後尖の接合が不良になる.そのような症例に,両弁尖の接合を大きくすることを目的として自己心膜による後尖のパッチ拡大を行う術式も報告されている307).高齢者では複雑な弁形成ではなく生体弁でのMVRも選択される. 持続性心房細動例の心不全の発生には心房性機能性MRそのものだけではなく,高率に合併する心房性機能性TRが大きく関与することが示されている148).したがって,心房性機能性MRとTRをそれぞれ単一の病態としてではなく,心房と弁輪の拡大による両心の房室弁逆流を伴う複合病態と捉えて治療を考えるべきだと思われる. 5.4.2 手術適応および至適時期(表16) 心室性機能性MRに関する従来の治療ガイドラインを,まったく病態が異なる心房性機能性MRに適用することはできない.治療を選択する根拠となるデータがまだ乏しく,外科手術を考慮するためには現時点では少なくとも心不全症状がある症例に限られるべきと思われる.洞調律化が考慮されない永続性心房細動例において,利尿薬による体液量調節や頻脈対策が行われているにもかかわらず心不全症状を繰り返し,重症心房性機能性MRを有する際には手術治療を考慮する(推奨クラスIIa).また,同様な状態で心房性機能性MRが重症でなく中等症である場合にも,心不全の増悪時や運動負荷時にMRが重症となり,MRが心不全に関与していると考えられる場合には手術治療を考慮する(推奨クラスIIa).ただし,保存的治療と外科的介入のどちらが心イベント回避に優れているかを明らかにするためにはエビデンスの蓄積が必要である.本病態における手術適応および至適時期に関する論議は今後の臨床研究に委ねられる. 6 カテーテル治療の適応 6.1 カテーテル治療の現状 MRの治療の第一選択は外科手術だが,手術適応があるMR患者でも一次性MRの約半数,二次性MRの約8割の患者が手術に至っていないと報告されている309).経皮的カテーテル僧帽弁修復術は,手術不能または手術リスクの高いMR患者への治療として開発された.現在もっとも普及しているのがMitraClip ®である.MitraClip ®はAlfieriが考案した外科的僧帽弁修復術edge-to-edge repairをカテーテル的に行うデバイスである.2008年に欧州で一次性・二次性MRに,2013年に米国で一次性MRに対して承認され,わが国でも一次性および二次性MRの両方に対して2018年4月から保険適用となった.また,2019年3月には,後述する多施設共同ランダム化比較試験の結果を受けて,米国でも二次性MRに対して追加承認された. 6.2 適応とその評価法 6.2.1 一次性MR MitraClip ®治療と従来の外科手術を比較した多施設共 表16 心房性機能性MR に対する治療の推奨とエビデンス レベル 推奨クラスエビデンス レベル 有症候性心房性機能性MR の心不全に対する十分な薬物療法I C有症候性心房性機能性MR のカテーテル・アブレーションによる心房細動の洞調律化治療(注1) IIa C薬物治療によっても心不全症状を繰り返す重症心房性機能性MR に対する僧帽弁手術(注2,注3) IIa C注1: 心房細動の持続期間や左房サイズ等から推測される治療後の洞調律維持率も考慮して適応を考える.注2: 安静時MRが中等症であっても,心不全増悪時や運動負荷時に重症に悪化する場合を含む.注3: TR合併に対しては積極的に三尖弁手術の同時手術を考慮する.