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p.31 抽出テキスト

3上記所見のみられない早期手術

僧帽弁逸脱に伴う無症候性慢性重症MRに対し,左室機能低下なし・心房細動なし・肺高血圧なしの症例を早期手術の適応とするかについては,現時点では議論が定まらないところである.高度逆流の存在は,心機能が保持されていても予後を悪化させるという長期フォローアップの結果から,重症MRに対する早期の手術介入を推奨する考えもある20).一方,無症候性重症MRで,LVEF> 60%,LVESD<40 mm,肺高血圧なしで洞調律が維持されている場合,定期的なフォローアップにより症状や左室機能低下,肺高血圧,心房細動などの所見が出現したタイミングで手術をした場合にも予後に影響はないとの報告もある214, 215).しかし,最近のコホート研究では,有症候性になってからの手術は,無症候性での早期手術例よりも予後が劣ることが示され,現時点では,安全に耐久性のある形成術が可能である場合には無症候性であっても早期手術を推奨する方向となっている209, 216-218).現在,形成術の手技はある程度確立され,その成功率や耐久性の向上に伴い,弁逸脱ではほとんどの症例で形成術が施行されるようになっている. ただし,Barlow’s diseaseのような広範逸脱や両尖逸脱などの複雑病変に対する弁形成は難易度が高くなるため,早期手術を考慮する場合は特に,おのおのの施設での手術成績も踏まえた上で個々の症例に対する手術適応・タイミングの判断をすることが必要である.よって,無症候性で左室機能が保持され,心房細動や肺高血圧などがみられない症例に対しては,弁膜症治療に精通した弁膜症チームによる術前の十分なディスカッションにより,安全で確実な,耐久性のある形成術が可能であると判断された場合に限り僧帽弁形成術を考慮する(推奨クラスIIa).複雑病変である場合や,その他の理由で早期手術を見送った場合には,半年から一年ごとに症状・心エコー図所見などによる経過観察とし,変化がある場合にはあらためて手術適応を考慮する214, 215, 219).無症候性重症MRに対する早期手術に関しては,CQ 1も参照されたい. 4その他の参考となる指標

無症候性重症MRでは病態把握のため運動負荷心エコー図検査が有用である.無症候性重症MRで安静時肺高血圧のない症例に対し運動負荷心エコー図検査を行い,負荷時の推定肺動脈収縮期圧>60 mmHgの症例は早期手術を考慮する目安となる53)(推奨クラスIIb).ただし,運動負荷時の肺動脈圧は年齢や拡張機能など他の因子による影響も考慮し判断する必要がある.また,無症候性MRにおけるBNP高値は予後を予測するという報告もある.現時点ではエビデンスは十分ではないが,逆流に伴う症状の有無が不確実な場合や,早期手術の適応がボーダーラインである場合には参考となると考えられる9).ま

た,左房拡大(≧60 mL/m 2)を呈している症例では無症候性であっても予後不良であるという報告があり,手術適応の際の参考となる(推奨クラスIIb) 220).

他の開心術を行う際,重症MRがあれば同時に僧帽弁に対して手術を行う(推奨クラスI).また,中等症MRで形成術が可能であれば同時に僧帽弁に対して手術を行う(推奨クラスIIa)が,形成術が困難である場合は,弁膜症チームで議論して慎重に適応を決定する. b. 急性MR

急性MRでは,慢性MRと異なり,コンプライアンスの低い小さな左房に対し急激な容量負荷となるため,急激な左房圧上昇を招き急性心不全となる.同じ重症度の逆流でも,慢性例にくらべ急性発症の重症MRでは心不全の内科的コントロールが困難であり,その場合は原則手術適応となる.成因によっては急速な血行動態の破綻により緊急を要する場合も少なくないため,発症後迅速な心エコー図による成因診断・重症度診断が必要となる.

CQ 1無症候性重症一次性MR でLVESD <40 mm かつLVEF >60%,心房細動も肺高血圧もない症例の早期手術は推奨すべきか?

耐久性のある形成術が安全に施行可能な場合には早期手術が推奨される.

推奨の強さ  2:弱く推奨する(提案する)エビデンス総体の強さC(弱)

解説

重症MRでは,無症状で心機能が良好であっても,診断されてから6年から10年の間には症状の出現,左室機能の低下,心房細動,肺高血圧の出現(トリガー出現)などにより,高率に手術の適応となる20, 214, 215, 221, 222).定期的な観察を行って,トリガー出現をとらえ,遅れることなく形成術を行うことができれば,術後の経過は健常人の予測生存曲線と差はないとする報告がある214, 215)一方,トリガー出現前の早期に手術を行うことで予後が改善するとする報告が多い210, 217, 218).術式は人工弁置換術に対して形成術の優位性は広く認識されており171, 172, 223, 224),早期手術を選択するにあたっては,耐久性のある形成術が安全に施行可能であることが前提となる.形成術の成功率は病変によって異なり,早期手術の場合は人工弁置換になる可能性のある複雑な病変は