p.29 抽出テキスト
ある.2018年度に診療報酬の新規手術に収載され,適応が広がりつつある.MICSでは,正中切開と比較して,手術時間,体外循環時間,大動脈遮断時間は延長するが,人工呼吸器時間,ICU滞在時間,在院日数は短く,手術死亡,遠隔成績には差がないことが示されている199, 200). 3.3.2 僧帽弁人工弁置換術(MVR) MVRの主な対象は,形成術が技術的に困難な症例や,硬化の強いリウマチ性,弁輪石灰化の強い透析例である. a. 人工弁の選択 人工弁には生体弁と機械弁がある(詳細は,「第11章人工弁置換術後」を参照のこと).僧帽弁位の生体弁は,大動脈弁位と比較し閉鎖時の負荷圧が高く,耐久性で劣る201).また,透析患者での生体弁は抗凝固療法が回避できる一方,弁の硬化,石灰化が非透析患者に比し早い202). b. 腱索温存MVR 弁置換術では,乳頭筋・腱索・弁輪のつながりを維持する腱索温存法が推奨される203, 204).特に後尖腱索を温存することは致死的合併症である左室破裂の予防に有効であり,後尖弁輪部の石灰化が強い場合を除いて後尖腱索は可及的に温存すべきである204).腱索温存法は遠隔期の左室の拡大予防が期待できる204-206).腱索を温存する場合,特に前尖では,遺残弁尖が人工弁と干渉しないよう注意が必要である. 3.3.3 適応と時期(表12,図6) 重症一次性MRの手術適応と時期は,逆流の成因や発症機転を考慮し,個々の症例で判断する必要がある.左室容量負荷による左室機能低下は無症状のまま進行することが多く,長期化することにより不可逆的な心筋ダメージを引き起こす.左室拡大,左室収縮能低下例では術後の予後が悪いため,僧帽弁形成術は左室機能低下が進行する前に行うことが望ましい.その他,術後の予後に影響するさまざまな因子が報告されており,適切な手術のタイミングを逃さないために,問診や心電図所見,胸部X線写真に加え心エコー図検査で慎重に評価することが必要である. a. 慢性一次性MR 症状の有無により治療方針が大きく変わるため,慎重な判断が必要である.症状の有無や,症状がMRに起因するものであるかの判断が難しい場合には,運動負荷検査などで客観的に評価することも考慮する.負荷の種類としては,各施設の環境に応じて決定されるが,症状と同時に心内圧や逆流の程度も評価できる運動負荷心エコー図検査が推奨される. i 有症候性MRに対する手術適応 重症MRによる心不全症状を伴いLVEFが30%を超えていれば,僧帽弁形成術または置換術の適応となる(推奨クラスI) 207, 208).LVEF≦30%の重症左室機能低下例においては,十分な内科治療で症状の改善が得られず僧帽弁手術によって症状の改善が期待される場合に僧帽弁手術を考慮する(推奨クラスIIa).手術リスクの高い症例で,形態的な要件を満たした場合は,経カテーテル的僧帽弁 表12 慢性重症一次性MR に対する手術適応の推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 僧帽弁形成が可能と考えられる症例での僧帽弁形成術の選択I B他の疾患に対して開心術が施行される場合の同時僧帽弁手術I C有症候性で,LVEF >30%の症例に対する僧帽弁手術I B有症候性で,LVEF ≦30%であるが,弁膜症チームによる協議により僧帽弁手術によって症状の改善が期待されると判断された場合の僧帽弁手術IIa C無症候性で,LVEF ≦60%またはLVESD ≧40 mm (LVESDI ≧24 mm/m2)の症例に対する僧帽弁手術I B無症候性で,LVEF >60%かつLVESD < 40 mm (LVESDI <24 mm/m2)であるが,心房細動を発症または安静時PASP >50 mmHg である症例に対する僧帽弁手術IIa B無症候性で,LVEF >60%かつLVESD < 40 mm (LVESDI <24 mm/m2)であり,心房細動の発症もなく安静時PASP ≦50 mmHg であるが,耐久性のある僧帽弁形成が安全に施行可能と考えられる症例に対する僧帽弁形成術IIa C無症候性で,LVEF >60%かつLVESD < 40 mm (LVESDI <24 mm/m2)であり,心房細動の発症もなく安静時PASP ≦ 50 mmHg であるが,・ 経時的に左心機能低下が進行する症例,または・ 運動負荷時PASP >60 mmHg となる症例,または・ 左房拡大(左房容量係数≧60 mL/m2)のある症例に対して,弁形成が可能と考えられる場合の僧帽弁形成術IIb C LVESDI: LVESD index(=LVESD/BSA),PASP:肺動脈収縮期圧