p.28 抽出テキスト
凝固療法関連出血,弁機能不全,人工弁感染症など)のリスクを回避でき,左室機能が良好に維持され,術後遠隔期の生存率が良好となる171, 172).したがって,耐久性のある逆流制御が可能であれば形成術が第一選択となる172-174).形成術が困難な場合は人工弁置換術が選択される.2016年の日本胸部外科学会の学術調査結果では,単独手術の約7割に形成術が行われており,術後30日死亡率は形成術が1.0%,弁置換が4.2%であった175). 3.3.1 僧帽弁形成術 a. 手技 逸脱弁尖の矯正は,余剰弁尖を切除し再縫合を行う方法と176),ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)糸で腱索を再建する方法177)が主流である.大きな台形切除や延長した腱索の短縮術の成績は不良である178).広範に変性の強い組織を残したままの逸脱矯正は再発のリスクが残る.遠隔期の耐久性のために,人工弁輪を用いた弁輪形成術が推奨される178-180).収縮期の弁輪拡大による収縮後期逸脱(late systolic prolapse)に対しては弁輪形成術が一定の効果がある181, 182). b. 人工弁輪の選択 人工弁輪には柔軟性の点から,リジッドリング,フレキシブルリング,フレキシブルバンドがある183-185).その柔軟性は製品により異なる.全周性人工弁輪(Total Ring)は僧帽弁の前後径を確実にリモデリングし遠隔期の逆流制御に有効で,特に弁輪拡大の強い症例に推奨される.一方,前尖弁輪の生理的な動きを制限してしまう欠点がある.後尖弁輪部の人工弁輪(partial ring/band)は前後径のリモデリング効果が少ない一方,前尖弁輪の生理的動きが維持され,収縮期前方運動(SAM)のリスクも軽減できる186).逸脱矯正により十分な接合が得られている場合にはpartial ring/bandが望ましい. c. 形成術に適した病変 逸脱病変は形成術の良い適応で,特に後尖の1 つのscallopに限局している場合,成功率が高く遠隔成績も良好である.前尖逸脱の遠隔成績は後尖にくらべやや不良である171, 176, 177, 180, 187).複数の弁尖に病変を認めると難易度が高くなり,技術的に困難な場合がある188, 189).弁の硬化や弁輪の石灰化がある場合や,リウマチ性の病変では不完全修復となるリスクが高い. d. 成績 再手術は術後1~3年以内の比較的早期に集中し,早期再手術率は4%前後が一般的である180, 187).その後は安定し10年後の再手術回避率は90%前後で,中等度以上の逆流再発回避率は80%前後である171, 173, 174, 176, 177, 180, 187).形成術は外科医の技術に依存するところが多く,弁膜症チームがよく機能している施設の成績は良好である180, 190). e. 再手術の危険因子と要因 再手術の危険因子として,1)前尖逸脱,2)人工弁輪の非使用,3)腱索短縮術,4)不完全修復(手術終了時の軽度以上の逆流)があげられる177, 178, 180, 187, 191, 192).また,再手術時の所見から手技関連の要因として1)弁尖縫合部位の離開,2)人工弁輪の脱離,3)溶血,4)SAM,5)短縮された腱索の不具合,6)不完全修復部位の増悪,また弁関連の要因として1)新たな変性病変の進行,2)IEが挙げられる193, 194).術中,SAMは4~9%の割合で起こり,長い弁尖,左室過収縮,小さな左室,肥大型心筋症やS字状中隔のように左室流出路に圧較差を有する症例などが危険因子として報告されている186, 195-198).強心剤の中止,容量負荷,β遮断薬の投与などで改善することが多い186, 196). f. 右小開胸僧帽弁形成術 右小開胸アプローチはMICS(minimally invasive cardiac surgery:低侵襲心臓手術)の1つで,美容的に優れ,早期回復・早期社会復帰が可能であるという利点が 表11 一次性MR に対する検査の推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 一次性MR が疑われる症例の,MR 重症度・病因,左室サイズ/ 機能,左房サイズ,肺高血圧の程度などを評価するためのTTE I B中等症~重症MR で,MR 重症度や病因に関する十分な情報がTTE では得られない場合のTEE I B無症候性重症MR で,手術時期を決定するための定期的なTTE I B無症候性重症MR で,症状の有無を確認するための運動負荷検査IIa C無症候性重症MR または有症候性中等症MR における負荷時の血行動態把握のための運動負荷心エコー図検査IIa B TTE での評価が困難な症例や,臨床症状と心エコー所見に乖離があるような症例における心臓カテーテル検査による重症度・血行動態評価IIa C僧帽弁逸脱症例における3DTEE による正確な逸脱の評価IIa C TTE で十分な情報が得られない場合の,左室サイズ・機能評価のための心臓MRI IIb C