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p.26 抽出テキスト

3 一次性(器質性)MR

3.1 病態と自然歴

僧帽弁弁尖や腱索の構造的異常によるMRは一次性(器質性)MRとよばれ,僧帽弁逸脱(mitral valve prolapse),僧帽弁腱索断裂,リウマチ性MR,僧帽弁穿孔や僧帽弁輪石灰化によるMRが相当する.なお,僧帽弁逸脱の主因はdegenerative(変性性)で,FED からBarlow’s diseaseまで含まれる33, 154-158).僧帽弁輪石灰化は,弁輪部分を中心とした連続的な石灰化で,三次元(3D)的な広がりをもつ.高齢者に多い傾向を認めるが,その頻度は明らかではない.この病態が単独でMRを生じるか否かは不明で,多くはそのほかの弁膜症などにともなって診断される.高度に広がった僧帽弁輪石灰化は外科治療を困難にすることがあるため,臨床的には注意が必要である.

一次性MRの基本病態は,左室の容量負荷と左房への逆流による左室後負荷の減少である.そのため,左室は過収縮となる.逆流により左房圧は上昇するが,慢性MRでは左房拡大により左房圧の上昇は緩和される.左室の拡大により,心拍出量は維持され,また左室拡張期圧を正常にとどめる.

しかし,一定期間が経過し逆流量がさらに増大すると代償機転は破綻する.代償されない左室拡大は収縮期の壁ストレスを増悪させ,LVEFは低下し,心拍出量は低下する.左房圧の上昇から肺うっ血,肺高血圧をきたす.この時期になると,拡大した左室が僧帽弁複合体の構造に影響を与え,さらに逆流量が増えることにつながる.そして,この左室拡大と左室収縮能低下の非代償期には左室の線維化が進み,心機能低下が不可逆的になる159).重症MRは無症候性でも予後が不良で,EROAが0.4 cm

2 を超える無症候性重症MRの追跡研究では,10年で90%

が外科治療を受けるか死亡していることが報告されている.また,手術死亡率はNYHA心機能分類I ~II度群のほうがIII ~IV度群より低く,LVEF 60%未満の群では術後10年生存率は低いことが報告されている.同様に, LVESDが40 mm以上であれば,予後不良である160).さらに,心房細動を合併すると予後に影響を与える.洞調律,一過性心房細動,持続性心房細動の10年生存率は,それぞれ74%,59%,46%である161).このような病態の悪化は自覚症状の悪化よりも早く進行しうることに留意

が必要である.

3.2 診断

3.2.1 症状

急性重症MRはほとんどの場合,左房拡大による代償機転が働かず,左房圧の上昇に伴って肺水腫を引き起こす.代表的な症状は,強い息切れ,起坐呼吸,浮腫と呼吸困難である.一方,慢性MRの場合には初期は症状を欠くが,病状の進行に伴って肺うっ血による労作時息切れを訴える.重症になると発作性夜間呼吸困難や起坐呼吸を呈する.また,低心拍出量に基づく易疲労感等を訴えることもある.心房細動を合併した場合は,動悸症状を招くだけでなく,頻拍になると急速に心機能を低下させ血行動態を悪化させる.ただし,これらの症状が出現する時期は,かならずしも病態の悪化と一致せず,心機能がかなり低下するまで無症候のまま経過する症例もあることに注意が必要である158).

3.2.2 身体所見

視診と触診では,左室拡大に伴って心尖拍動が左下方向に偏位する.聴診では全収縮期雑音とIII音が特徴的である.全収縮期雑音は左室左房圧較差で生じる特徴的な収縮期雑音である.この雑音はプラトーとは限らず,急性の重症例ではダイヤモンド型を呈する.その他にも収縮後期に逆流が増大する僧帽弁逸脱例は,収縮後期に強くなる全収縮期雑音や収縮後期雑音を呈する.また収縮期クリックは僧帽弁逸脱の特徴的所見である.これらの全収縮期雑音で鑑別すべき疾患には,TRや心室中隔欠損症がある.TRはRivero-Carvallo徴候で鑑別できるが,心室中隔欠損症との鑑別には心エコー図検査が必要である.また,広く収縮期雑音として,ASや閉塞性肥大型心筋症との鑑別が必要であり,それらの鑑別に頸動脈拍動が役立つ.ASではAnacrotic pulseとシャダーが特徴的であり,閉塞性肥大型心筋症では二峰性の頸動脈拍動がある.これらの所見はMRでは認められない.

MRではこれらの収縮期の所見だけでなく拡張期の所見にも特徴がある.III音は,心尖部に聴取できる低調な過剰心音であり,軽症例以外で拡張早期に現れる.この心音は若年正常例で聴取する高調成分に富んだ音とは異なり,40歳を超えて聴取する鈍い音で,MRで生じた僧帽弁血流の異常な増大を反映している.さらに重症MRでは拡張中期ランブル(Carey Coombs雑音)が出現する.