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p.24 抽出テキスト

1.2 急性と慢性

急性MRの成因としては,特発性あるいはIE,外傷性による腱索断裂,急性心筋梗塞に伴う乳頭筋断裂あるいは急性の機能性MR等があげられる.重症MRが急性に生じた際には,左室の前向き一回拍出量の減少を代償するために左室が過収縮となるが,十分な代償は行えない場合には低心拍出量と肺うっ血を生じ,ショック状態に陥る.

一方,慢性MRでは,左室が拡大することによって総一回拍出量が増えて前向き一回拍出量の減少が代償され,低心拍出量や肺うっ血をきたさず無症状で経過する.低圧系の左房に逆流血流を駆出することによって,左室にとっての後負荷は低く,LVEFは正常以上に維持される.したがって,LVEFが正常であっても正常下限近くまで低下している際にはすでに心筋障害が進行していると考えてよい.長年の経過を経て非代償期になるとLVEFが低下して前向き一回拍出量が減少し,慢性心不全の状態となる.また,慢性的な左房圧の上昇によって,左房が拡大して心房細動が生じやすくなる.

2 重症度分類

おもにTTEを用いて,軽症(mild),中等症(moderate),重症(severe)の3段階に分類する(表10) 33).指標間で結果が異なる場合,または心房細動例等において心拍間で結果が異なる等の理由で隣り合う重症度分類のいずれにも属する可能性があると判断された場合には,軽症~中等症,中等症~重症といった曖昧な分類を使わざるを得ない.しかし,断定的に診断できた際には上記の3 つのいずれかにはっきりと分類したほうがよい.重症度分類のためには種々の定性および定量評価の方法が提唱されているが,それぞれに長所と短所がある.症例によっても適した方法が異なる.したがって,各症例に適した方法をその長所と短所を理解した上で適用し,重症度を総合評価する必要がある.

定性評価で頻用されるのは,カラードプラ法でMRジェットの大きさ(左房面積に対する占有面積)を評価する方法である.簡便で使いやすいが,カラードプラ法におけるMRジェットの大きさは,断面設定やMRの成因,ジェットの向きによって異なる150).また,左房壁に沿うような偏向性ジェットでは,真の逆流量にくらべてカラードプラ法によるジェットが小さく描出されるため(Coanda

効果),MRを過小評価してしまう151).その他,カラーゲインや繰り返し周波数(速度レンジ)など機器設定の影響を大きく受けることもカラードプラ法の欠点としてあげられる.定量評価法には,PISA法と,ドプラ法によるvolumetric法がある.PISA法は,逆流の上流吸い込み血流が半球形であると仮定し,半球の表面における瞬時血流量と有効逆流弁口における瞬時血流量が等しいことから,EROAおよび逆流量を計算する定量法である.一方, volumetric法とは,ドプラ法を用いて左室一回流入量と左室一回拍出量を求め,MR量はその差として,MR率は逆流量の左室一回流入量に対する比率として,それぞれ計算する定量法である.器質性MRで,逆流弁口が限局している場合にはPISA法を使うほうがよい.しかし,複数のMRジェットがある場合には,どれかひとつの上流吸い込み血流を用いて計算するだけではEROAを過小評価してしまうため,PISA法は不向きである.また,PISA法の計算過程にはMRの速度の計測が含まれるので,MRジェットが偏在性でどのような角度からも適切に速度計測ができない場合にも,PISA法は不向きである.一方,機能性MRでは,前後尖の接合部に沿って横長に生じた間隙が逆流弁口となる152).したがって,逆流の上流吸い込み血流が半球形であると仮定して計算されるPISA法によるEROAの定量は不正確になることが多い.典型的には,横長の上流吸い込み血流を縦に横断した断面で評価してしまい,EROAを過小評価する.また,機能性MRにおけるEROAは,収縮早期から収縮中期,収縮末期にかけて,時相ごとに劇的に変化する(典型例では収縮中期にいったん小さくなる) 153).このこともPISA法による機能性MRの定量評価が不正確となる原因のひとつである.したがって,機能性MRにおける逆流の定量にはvolumetric法を用いるほうがよい.低心機能例では,逆流量が小さいにもかかわらず前向き拍出量も小さいために逆流率は大きいという,逆流量と逆流率の乖離がしばしば生じることに注意が必要である.volumetric法の欠点としては,MRにARを合併すると不正確となる点があげられる.