p.22 抽出テキスト
1 分類と成因 1.1 一次性(器質性)と二次性(機能性) 報告されているMRの有病率は,報告ごとに母集団や定義が異なるため一定はしていない.しかし,先進国において,MRはASと1,2 を争うほど有病率の高い弁膜症であることは共通している135, 136).加齢により増加し,米国では75歳以上の9.3%が中等症以上のMRを有すると報告されている136).僧帽弁は,左室および乳頭筋,腱索,弁尖,弁輪,左房によってその機能が決定され,これらは総称して僧帽弁複合体あるいは僧帽弁装置とよばれる.これらのいずれの部分に障害があってもMRが生じうる(表8).これらのうち,弁尖または腱索,乳頭筋の器質的異常によって生じるMRは一次性MR(器質性MR)とよばれ,degenerative(変性性)MR(DMR)やリウマチ性MR等を含む.左室や左房の拡大または機能不全に伴って生じるMRは二次性MR(機能性MR)とよばれる.MRの原因疾患を表9にあげた. 器質性MRは,発展途上国ではリウマチ性のものが多い.しかし先進国ではリウマチ熱が減少したことからリウマチ性MRの頻度が著減し,僧帽弁逸脱症,高齢者や透析患者における弁尖・弁輪の硬化・石灰化に伴うものなど,リウマチ性以外の器質性MRの頻度が高くなっている136).僧帽弁逸脱症の素地となるのは,弁尖や腱索へのムコ多糖の蓄積による粘液腫様変性である.マルファン症候群などの結合織異常をきたす疾患に伴うこともあるが,多くの場合は特発性である.弁尖の変化が少なく断裂・延長などの腱索の問題が主である場合と,弁尖自体の粘液腫様変性が主である場合とに大別できる.腱索の変性による断裂または延長が主成因で弁尖自体の変性が乏しい場合には,逸脱およびMRの逆流弁口が比較的限局的であることが多い.病理的分類ではこのような異常をfibroelastic deficiency(FED)とよぶ(図5).一方,弁尖の粘液腫様変性が主である場合には,弁尖が肥厚・拡大して余剰となり,弁腹が収縮期に左房側へ膨らむbillowingとよばれる異常が出現する.重症の場合はbillowingが広範囲に至る.弁先端の逸脱部位も複数となりMRジェットが複数存在することが多い.このような例をBarlow’s diseaseとよび,前述したFEDと区別され 第2章 僧帽弁閉鎖不全症/ 僧帽弁逆流症(MR) 表8 MR の成因 部位原因弁尖に生じる現象Carpentier 分類左室左室の拡大や収縮能低下によるテザリング※1可動性の低下による接合不全IIIb乳頭筋心筋梗塞による断裂逸脱II 腱索変性による延長または断裂(FED)逸脱II IEによる断裂逸脱II 弁尖粘液腫様変性(肥厚および拡大,Barlow’s disease)逸脱II IE穿孔I 弁尖+腱索加齢性やリウマチ性の硬化可動性の低下による接合不全IIIa左房+弁輪左房拡大とそれに伴う弁輪拡大(おもに心房細動に伴う) ※1弁輪の拡大による前後尖の接合不全(+後尖のみのテザリング ※2) I(+IIIb ※2) ※1 は二次性(機能性)MR,その他は一次性(器質性)MR ※2 心房性機能性MRの機序として後尖のテザリング(Carpentier IIIb)も混合しているとする報告がある137-139).