p.15 抽出テキスト
2.2 狭窄の評価 高齢化によるASの増加,そして経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)の急激な普及によって,心エコー図検査にはいっそう正確なASの診断が求められている.ASの診断にはAVAの推定が重要である.その方法には断層像でプラニメトリ法によってトレースして求める方法と,ドプラ法を用いた連続の式によって求める方法がある36, 37).連続の式では大動脈弁通過血流が最も縮流となった機能的弁口の面積を推定し,プラニメトリ法は解剖学的なAVAを計測する方法である.機能的弁口は解剖学的な弁口より大動脈側にあり,連続の式で計測されるAVAはプラニメトリ法での計測よりも小さくなる.しかし,プラニメトリ法は,高度な石灰化の影響や,適切な断面の描出ができないために,正確なトレースが困難なことが多く,特にTTEでの計測は推奨されない36, 37).一方,連続の式でも誤差を生じる可能性を念頭におく必要がある. ASでは,石灰化やS字状中隔,流出路が楕円形であることによる影響で左室流出路径からの左室流出路断面積の計測に誤差が生じやすいこと,大動脈弁輪レベル駆出血流速波形のトレースラインを引く際に誤差が生じやすく,また駆出血流速度の最大値が捉えられていない可能性があることなど,複数の要因によってAVA推定に誤差が生じる可能性を含んでいる.このため,AVA推定値と臨床所見に乖離がみられる際には,再測定やコンピュータ断層撮影(CT)によるAVA測定を考慮すべきである.また,これらの指標は,大動脈圧や心拍出量などの負荷条件による影響を受けることから,個々の病態の多様性を踏まえ,慎重な病態の解釈が必要である36). 僧帽弁狭窄症(MS)では,連続波ドプラ法による僧帽弁平均圧較差(mPG),圧半減時間(PHT)法による狭窄度評価が推奨される36).大動脈弁同様にTTEでのプラニ メトリ法は誤差を生じる可能性がある. 逆流・狭窄の評価において,それぞれの測定法のピットフォールを知り,複数の指標で評価し,それらの結果が合致しない場合はその原因を探究し,状況に応じて他のモダリティでの評価も考慮する. 2.3 肺高血圧と右室機能の評価 左心系弁膜症では,左房圧の上昇から二次的な肺高血圧を合併することがある.特にASおよびMRでは安静時および運動時の肺高血圧が,症状や予後と関連することが知られている38-44).このため,弁膜症では肺動脈収縮期圧の推定が行われるべきである.推定肺動脈収縮期圧は,TRの最大速度から簡易ベルヌーイ式で右室収縮期圧を求め,下大静脈最大径と呼吸性変動率によって推測される右房圧を加算して求めることができる13, 45).推定肺動脈収縮期圧が35 mmHg以上で肺高血圧を示唆する.ただし,TR波形が不明瞭な症例では,過大もしくは過小評価する可能性があるため注意が必要である.また,重症TRでは逆流が層流となり,簡易ベルヌーイ式による右室収縮期圧の推定が不正確になることにも注意が必要である.TRを認めない,またはTR波形が不明瞭な症例では,肺動脈血流加速時間,肺動脈弁逆流速度波形の最大速度から平均肺動脈圧を推定することができる45). 肺高血圧ならびに三尖弁疾患や肺動脈弁疾患は右室機能低下を生じさせる.右室収縮機能は三尖弁輪収縮期移動距離(TAPSE),組織ドプラ法による三尖弁輪収縮期速度(S’),および右室面積変化率(FAC)を組み合わせて評価することが推奨される(図3) 45).ただし,TR症例では,これらの指標では右室収縮機能を過大評価し,正しい右室収縮機能評価が困難な可能性がある. A1 A2 A B C RV RA LA LV S’ 図3代表的な右室収縮機能評価法A TAPSE(mm): 両矢印の距離に相当.正常は17 mm以上. B 組織ドプラ法による三尖弁輪収縮期速度(S’, cm/秒).正常は10 cm/秒以上. C FAC: 拡張末期面積(A1)と収縮末期面積(A2) から,(A1-A2)×100/A1(%)で求める.正常は36%以上.