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p.107 抽出テキスト

3.2 人工弁術後

妊娠を希望する若年女性に対しては人工弁手術の際に生体弁を選択する.生体弁であれば,弁機能不全や左室機能障害がなければ妊娠分娩に伴うリスクは低いが,生体弁劣化により狭窄・逆流などの人工弁機能不全を有する症例ではリスクが高くなる817, 825, 842, 843).30歳以下での生体弁置換は弁の構造異常を生じる率が高く,妊娠は弁構造の変性を早めるという報告もある844, 845).

妊娠を希望し生体弁を選択した女性は,その生涯において弁機能不全からくる複数回の再弁置換のリスクを受け入れなければならない.

一方,機械弁置換術後の妊娠においては,母体死亡は1~4%,重篤な事象の出現は40%以上とされる825).妊娠中には凝固機能が亢進すること,ワルファリンには催奇形性があることから機械弁の血栓付着,母体出血,胎児奇形リスクがそれぞれ高いため,一般的には妊娠は勧められない.機械弁置換術後患者が妊娠した場合,抗凝固療法をどのように行うかが最大の問題となる.すべての抗凝固薬は流産を増加させ,胎盤出血とそれに伴う早産や死産を含めた出血性合併症の可能性を有する.ワルファリンは胎盤通過性を有し0.6~10%の症例で胎児の異常を生じる846-848).一日のワルファリン量が5 mg以下での胎児異常は2.6%と低いのに対し,5 mg以上では8%であり,催奇形は用量依存性とされている849).一方未分画ヘパリンや低分子ヘパリンでは胎盤通過性はなく,胎児の異常は生じないが,血栓弁の予防という点からはワルファリンに劣る.妊娠中に母体が血栓弁を起こす頻度,および母体死亡のリスク(多くは機械弁血栓と関連)はともに,妊娠全期間に未分画ヘパリンを使用した場合>初期妊娠期に未分画ヘパリンを使用し中期以降を経口抗凝固薬とした場合>妊娠全期間で経口抗凝固薬を内服した場合の順で高かった850, 851).ワルファリンを使用中の経腟分娩は,致死的頭蓋内出血のリスクがあるため禁忌である.

米国852)や欧州842)のガイドラインでは妊娠中の抗凝固薬使用について記載があるが,わが国では保険適用に制限もあり,適切な管理法が確立されていない.詳しくは日本循環器学会/日本産科婦人科学会合同ガイドライン心疾患患者の妊娠・出産の適応,管理に関するガイドライン(2018年改訂版) 817)を参照されたい.

分娩時のIEは発生率は少ない(1~10%)ものの,ひとたび発生すれば予後不良であり低リスク以外の症例での予防を否定するものではない853). 4 非心臓手術における評価

4.1 術前評価と術中モニタリング

弁膜症患者では,非心臓手術周術期の心血管系のリスクが高い.これまで弁膜症の既往がない患者においても慎重に聴診を行い心雑音の有無を確認すべきである.一般的には機能的雑音がLevine III/VI度以上となることはきわめてまれであるが,雑音の大きさは体格などの影響も大きく,心雑音が小さくても器質的心雑音を完全に否定するものではない.よって,弁膜症患者はもちろん,心雑音を有する患者は術前にTTEを行い,弁膜症の有無,重症度や左室機能を評価するべきである.非心臓手術に先行して弁膜症に対する介入が必要か否かは,自覚症状,重症度,非心臓手術のリスク(表53) 854)を考慮して決定する.

非心臓手術周術期管理は,特にMSでは心拍数コントロールが,ASでは慎重な輸液管理が重要である233).また術中はTEEによるモニタリングも考慮すべきである.体血管抵抗の急激な低下は,拡張期圧や冠動脈血流が減少し心筋虚血を来たしうるため,虚血性心疾患や末梢血管病変合併例では注意が必要である.よって,麻酔管理は,低血圧を避けるように麻酔薬の投与方法と種類を選択すべきである.後負荷増加を来たしうる喉頭鏡,気管挿管または外科的刺激などの麻酔手技の有害な影響を考えておくべきである.フェニレフリンまたはノルエピネフリンは左室収縮機能や拡張機能低下をきたし難いことから,昇圧に使用可能である.全身性高血圧症の場合は,ニトログリセリンなどの前負荷軽減薬ではなく,短時間作用型カルシウムチャネル拮抗薬などの動脈拡張薬を優先的に使用する.

4.2 各論

4.2.1 AS

AS患者では慢性的な圧負荷により左室コンプライアンスが低下しており,左室充満には前負荷と心房収縮が必要である.よって正常洞調律を維持することが重要である.上室頻拍や心房細動により血圧低下をきたした際はすみやかに電気的除細動を行う.輸液は,左房圧が過度に上昇することなく心拍出量が保たれる程度に行う.