p.106 抽出テキスト
b. AS MSと比較すると,ASは一般的に妊娠耐容性があるとはされるが818),重症ASでは,母体,胎児ともに合併症発生率が高い826, 827). 内科治療としては,β遮断薬と利尿薬,母体の安静による心内圧の正常化である828). 心不全コントロールが困難な場合,血行動態が不安定な場合には弁形成や弁置換が考慮される.AVR時の人工心肺使用による胎児死亡率は30~40%と高い. 妊娠中に問題となる重症ASの多くは,妊娠前から有症状であったり,左室機能低下例であり,十分な教育と妊娠前に適切な治療を行うことが推奨される. c. PS PS合併妊婦は,PS単独またはファロー四徴症やNoonan症候群の一部分症として認められる829).PSは重症であっても左心系の狭窄病変に比較して母体の症状は少なく,妊娠中に症状が出現する重症PSは,右室機能低下がすでに進行していた場合である830).カテーテル治療は重症PS(最大圧較差64 mmHg以上)で症状が強い場合に考慮される817). 3.1.2 逆流病変 a. MR 妊娠中のMRの原因は僧帽弁逸脱によるものが最も多く,左室機能の正常なMRでの妊娠耐容性はよい831)が,左室拡大や左室機能の低下したMRでは循環血症量の増加により心不全を発症する可能性がある.したがって,心合併症は,循環血症量がピークに達する妊娠第3期に多く発生する832).妊娠中に有症状化したMRでは安静や利尿薬により負荷の軽減を図る.内科治療下でNYHA心機能分類IV度の心不全を呈する症例では,妊娠中に僧帽弁手術を考慮する.妊娠前から,有症候性重症MRでは,ガイドラインに準じて,妊娠前に手術を行うことを勧める. b. AR 若い女性のARの原因は先天性二尖弁が多い.他の原因としてはIEの既往や,心室中隔欠損症に伴うもの,大動脈基部拡大による接合不良によるARが挙げられる. ARでは,左室機能が保たれていれば重症度にかかわらず良好な妊娠耐容性であることが多い.しかし左室機能の低下したARでは,心不全や不整脈のリスクが高い832).妊娠中に症状が出現した症例では,安静と利尿薬にて負荷の軽減が図る.内科治療下でNYHA心機能分類IV度の心不全を呈する症例では,妊娠中に大動脈弁手術を考慮する.妊娠前から有症候性の重症ARでは,ガイドラインに準じて,妊娠前に手術を行うことを勧める. c. TR 若年女性で認められるTRはエプスタイン病やリウマチ性弁膜症,IEの既往を有する症例である833).TRの妊娠耐容性はエプスタイン病も含め良好である834).しかしエプスタイン病では低体重児や胎児死亡のリスクが高く,特に母体がチアノーゼを有する症例でリスクが高い835). d. PR PR合併妊婦は,多くは先天性心疾患で認められ,ファロー四徴症術後の経年変化として認められる22).しかし重症PRによる妊娠中の心血管合併症は稀で胎児死亡率も少ない836).妊娠中の症状出現のリスクを上昇させるのは,妊娠前の右室収縮能異常または右室肥大である837).入院中症状の出現したPRには内科治療が選択される. 3.1.3 特殊な場合 a. マルファン症候群 マルファン症候群やLoeys-Dietz症候群,エーラス・ダンロス症候群などの全身性の結合織異常を有する疾患群では,妊娠のため大動脈解離のリスクが高まり,母体と胎児に致死的病態をもたらす危険がある.もともと大動脈中膜の脆弱性を有し,妊娠による循環血症量の増加,心拍数の増加,血圧の上昇によって血管壁に対する負荷が増大しており,さらに妊娠中エストロゲン濃度の上昇により,大動脈解離のリスクが高まると考えられている.マルファン症候群では正常血管径であっても1%の大動脈解離リスクがあるが,妊娠関連の心血管リスクは大動脈起始部直径40 mmを閾値とする報告が多い838, 839).40 mm以下での解離の可能性がないわけではないが,40 mm以上で妊娠関連リスクは急激に増大すると報告されている.大動脈径45 mm以上での妊娠のデータは乏しく,妊娠は推奨されない.40~45 mmの症例で解離のリスク(解離の家族歴,急激な拡大)のある症例では妊娠前の手術を考慮する.しかしこれらの報告の多くは欧米のものであり,日本人を含むアジア人では,より低い値を基準としたほうがいい可能性がある840). b. ターナー症候群 ターナー症候群では25~50%に心疾患を合併する841).ターナー症候群の妊娠例に対する正確なエビデンスはない.しかし,一般の妊娠に比し,大動脈二尖弁や大動脈縮窄症の合併や高血圧症の合併により,大動脈解離の相対的リスクは高くなると考えられる.大動脈合併症は妊娠中の母体死亡リスクを11%以上に引き上げ,多くはスタンフォードA型大動脈解離で発症する.これらのリスクを低下させるには,高血圧のコントロールが重要であり,とりわけ妊娠中には重要といえる.