p.105 抽出テキスト
完全冠血行再建が困難な場合には,左前下行枝や支配領域の大きい冠動脈のCABGを優先して行うべきである. 2.2.2 TAVI施行患者における冠動脈血行再建の適応 ASに対してTAVI適応となる症例が開胸手術の高リスク群であることを考慮すると,冠動脈血行再建法としてはPCIが第一選択となると考えられる(推奨クラスIIa). PCIをTAVI施行前に施行するべきかに関しては,冠動脈狭窄部位,狭窄度,冠動脈と自己弁との位置関係を評価した上で,完全血行再建を目指すかも含めて弁膜症チームでの議論が必要である811-816).なお,左主幹部あるいは左前下行枝近位部病変を合併した症例で,左前下行枝のみの血行再建を目指す場合には,低侵襲の小切開CABGとTAVIの同時施行も選択肢となると考えられる. 2.3 CABG施行時の弁膜症手術の適応 CABGを必要とする患者が,それ単独で手術適応となる重症弁膜症を合併している場合は,同時に弁置換術あるいは弁形成術を行うべきである(推奨クラスI).中等症弁膜症合併例も多くの場合,弁膜症に対する手術を同時に行うことが推奨される(推奨クラスIIa)が,弁膜症によっては同時弁膜症手術が推奨クラスIIbのものや,逆にCABGのみが推奨クラスIIbのものもあり,詳しくは各弁膜症の項を参照されたい. 高度大動脈石灰化,低心機能,脳灌流低下例など,人工心肺下でのCABGが高リスクの場合は,弁膜症チームで議論の上,オフポンプCABGを選択し,あえて弁膜症に対しては同時手術をしないという選択もあり得る. 今後,重症ASに対するTAVIや重症MRに対する経カテーテル治療の普及により,弁膜症を合併しているCABG施行予定患者の治療戦略に変化をもたらす可能性はあり,今後の経験の蓄積とともに,この領域の治療ガイドラインについては適宜アップデートしていくことが必要である. 3 妊娠と弁膜症 妊娠分娩時は循環に影響を与える生理的変化が認められ,妊娠各時期によりその変化は違いをみせる.特に大きな変化は循環血症量の増加で,心臓に対しては前負荷の増大となる.この変化に心臓が耐え切れない場合には心血管合併症の発生につながる.妊娠における血行動態の変化につては日本循環器学会に よる心疾患患者の妊娠・出産の適応・管理に関するガイドライン(2019年) 817)があるので,ここでは要点のみを示す. 3.1 自己弁膜症(マルファン症候群・ ターナー症候群含む) 左心系の狭窄病変は妊娠中の心拍出量増加に適応できないため母体の罹病死亡の重要な危険因子である.MSはリウマチ性,ASは先天性が多い.一方,逆流性疾患では妊娠中の後負荷低下により症状はむしろ改善傾向を示す.弁膜症においては右心より左心,逆流より狭窄症がより大きなリスクとなる. 3.1.1 狭窄病変 狭窄病変においては心拍出量の増加は心内圧較差上昇をまねき,母体および胎児双方のリスク上昇をきたす. a. MS 重症から中等症のMSでは頻脈や心拍出量の増大,弁狭窄による拡張期血流の障害による左房圧の上昇と心拍出量の低下のため,重症MSでは母体,胎児ともに合併症発生率が高い818-821). MSでは妊娠の負荷によって妊娠中に初めて症状が明らかになることが多い.診断はTTEでなされるが,PHTから求めたMVAでは過小評価になるため,プラニメトリ法が推奨される36).妊娠中は僧帽弁圧較差よりもMVAのほうがMSの重症度として信頼度が高い. 内科治療では心拍数を下げ左室流入時間を長くすることが重要であり,β遮断薬が推奨される.心房細動が出現した場合には低分子ヘパリン投与下での洞調律化が推奨される.β遮断薬には母体の血圧低下,胎児の胎児発育不全,胎児徐脈,出生後の低血糖などの副作用の報告もあるが,ランダム化試験などのデータがなく議論のあるところである822, 823). 内科治療下でNYHA心機能分類III ~IV度の心不全を呈するMVA<1.5 cm 2 の中等症以上のMSでは,僧帽弁に対する介入を考慮する.弁の形態がカテーテル治療に適していればPTMCが適応となる.PTMCに適さない中等症以上のMSで心不全がコントロールできない場合, MVRが必要となるが,MVRでは母体死や胎児死亡のリスクが高くなる824, 825). 中等症以上のMSに関しては,妊娠前に,妊娠が高リスクになることについてアドバイスする必要がある.中等症以上のMSにおいては妊娠前にPTMCや外科手術について検討する.