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p.103 抽出テキスト

文は限られている.前述の大規模臨床試験の中で, ENGAGE AF-TIMI48では,生体弁置換術後症例のみのサブ解析が行われ772),DOACでワルファリンと同等,またはワルファリンより良好な結果であった.生体弁置換術後と弁形成術後を対象としたARISTOTLEのサブ解析773)でも,DOACのワルファリンに対する非劣性が示された.生体弁術後心房細動73人にDOAC(ダビガトラン44人,リバーロキサバン25人,アピキサバン4人)を使用した単施設後ろ向き研究774) では,有意な血栓塞栓症はなかった.大多数(72.6%)がアスピリンを同時服用していたが,一過性脳虚血発作1人(1.4%),大出血5人(6.9%),小出血6人(8.2%)であり,DOACは生体弁心房細動症例に効果がある可能性があると結論づけている.日本人の生体弁置換後心房細動患者における抗血栓療法に関しては,さらにデータが限定的であるが,DOACの有効性が示されている775).

一方,機械弁においてはダビガトランを使用した研究718)で血栓塞栓症の予防効果はワルファリンに劣り,出血性イベントは増加した.したがって,機械弁にはDOACを使用するべきではない.

非弁膜症性心房細動では心内血栓は9割が左心耳に形成されるのに対し776),生体弁の血栓は生体弁の縫着部分などに形成され,弁の機能不全を有する場合に多く発生することが知られている71, 713).最近, TAVI後のCTで発見される血栓弁に関する報告が散見される. SAVR,またはTAVI後でCT解析可能な症例(890人)のうち,106人(12%)で血栓弁がみられ,TAVIで多く(TAVI 13%,SAVR 4%),抗凝固療法が発生率を低下させることが示された(抗血小板薬2剤併用15%,ワルファリン4%,DOAC 3%).いずれも臨床的塞栓症状の出現はなく,抗凝固薬の投与で全例消失し,弁葉の可動制限の有無と臨床的経過に変わりはなかったと報告されている72).TAVI後の血栓弁の発生率は2.8%で,バルーン拡張型弁,valve-in-valve,抗血小板薬のみの使用がリスクになるとの報告がある777).以上から,弁組織の障害がある場合には血栓形成のリスクとはなるものの,臨床的塞栓症状にはつながっておらず,また生体弁の血栓形成率は,ワルファリンとDOACに差はない.

以上より,生体弁置換術後の心房細動症例に対してDOAC使用は可能と考える.ただし,エビデンスは不十分であり,「弱く推奨する」とした. 1.2 心房細動を伴う弁膜症手術時のMaze 手術・左心耳閉鎖/切除の適応

1.2.1 概説

心房細動を伴う弁膜症に対して,弁膜症手術を行う際にMaze手術や左心耳閉鎖または切除を行うかどうかは, Maze手術による洞調律化がどれほど見込めるか,左心耳切除によって血栓塞栓症をどれほど予防できるか,それらの手技によってどれほど手術リスクが増えるか,ということを考慮して症例ごとに検討する必要がある.心房細動に対する外科的リズムコントロール治療の方法は多様であり,Maze手術はその手技のひとつであるが,便宜上本章では心房細動に対する外科的リズムコントロール治療の総称としてMaze手術を用いて,その手技の詳細についての議論は省略する.また,文献の引用部分はMaze手術ではなく,各研究の表現を使用する.

1.2.2 僧帽弁手術時のMaze手術の適応(表52)

Gillinovらによるランダム化比較試験では,持続性心房細動を伴っている僧帽弁手術を要する患者260人を,同時に外科的アブレーションを行う群(両心房Mazeまたは肺静脈隔離術)とアブレーションを行わない群に分けて,12ヵ月後の心房細動回避率を比較した.アブレーション群は非アブレーション群よりも有意に心房細動回避率が高い(63% vs 29%)という結果であった.一方,ペースメーカー植込み率は有意に高かった(21.5% vs 8.1%). 1年死亡,脳梗塞,心不全による再入院などはいずれも有意差がみられなかった778).Maze手術の方法は報告によってさまざまであるが,他のランダム化試験や観察研究でも,僧帽弁手術と同時に外科的アブレーションを行うと僧帽弁手術単独にくらべて術後の洞調律化が有意に高いという結果が示されている779-784).いずれの報告においても一定の患者選択がなされているものの,Maze手術を加えることによる手術死亡や重大な合併症を増加させるということは示されていない.短期的には僧帽弁手術と同時に行うMaze手術は,手術リスクを増加させずに洞調律化を高める治療といえる.以上より,僧帽弁手術時に,慢性/持続性心房細動に対してMaze手術を考慮する(推奨クラスIIa).発作性心房細動に対しても,Maze手術または肺静脈隔離術を考慮してもよい(推奨クラスIIb)

高齢,左房サイズが大きいこと,心房細動の期間が長いことは,Maze手術後の洞調律化不成功の予測因子として知られている785, 786).これらの基準は明確ではなく,弁