p.102 抽出テキスト
1 合併する心房細動に対する治療 1.1 心房細動に対する抗血栓療法 1.1.1 心房細動における脳梗塞発症のリスク評価 非弁膜症性心房細動では,脳梗塞のリスク評価を行ったうえで適切な抗血栓療法を選択することが奨励されるが,弁膜症性心房細動では評価に限界がある.従来の日本循環器病学会の心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版) 764)では,人工弁置換(機械弁,生体弁とも)とリウマチ性僧帽弁膜症(おもに狭窄症)を「弁膜症性」としていた.しかし,最近欧米で発表されたガイドラインやその改訂版では,中等症以上の MSと機械弁を弁膜症性とし,その他の弁膜症や生体弁は非弁膜症性と同様の対応を求めている.確立したエビデンスとまでは言えないが,心房細動に対するDOACの前向きレジストリーには弁膜症患者を含んでおり,中等症以上の MSと機械弁以外の患者では,有効性・安全性に関して他の非弁膜症性心房細動と同等であったことが根拠になっている.そこで本ガイドラインでも「弁膜症性」を中等症以上のMSと機械弁と定義する. 非弁膜症性心房細動症例ではCHA2DS2-VAScスコアで脳梗塞リスクを評価するが,弁膜症性心房細動ではこのスコアに関するデータが不足しており臨床的に用いることができない. 1.1.2 心房細動に対する薬物治療 弁膜症性心房細動の基本的抗血栓療法はワルファリンである.特に塞栓症のリスクが高いため,PT-INR 2.0~ 3.0 でのワルファリン療法が推奨される(推奨クラスI).注意すべきは弁膜症性心房細動にはDOACの適応はない(推奨クラスIII)ことである.なお,非弁膜症性心房細動は,非弁膜症性心房細動のガイドラインに従う(生体弁 置換術後3ヵ月に関しては除く「第11章 人工弁置換術後2.2抗血栓療法 参照」). 生体弁置換術後3ヵ月以上経過した心房細動患者に対するDOAC使用の是非については,CQ5を参照されたい. CQ 5生体弁置換術後の心房細動にDOAC は使用可能か? 生体弁置換術後の心房細動にDOAC は使用しても良い 推奨の強さ 2:弱く推奨する(提案する)エビデンス総体の強さC(弱) 従来,使用可能な経口抗凝固薬はワルファリンのみであったが,2011年から,血液凝固カスケードの1 つであるトロンビンまたは第Xa因子を直接かつ選択的に阻害するDOACが非弁膜症性心房細動に使用可能となった.DOACはワルファリンに比較して血栓塞栓症の点で同等であり,出血性合併症に関してはより良好な結果であった. ここで,弁膜症性心房細動の定義が問題となる.欧州不整脈学会のガイドライン765)ではMS以外の自己弁,弁形成術後,生体弁置換術後は非弁膜症性として扱うと明記している.ESCの心房細動ガイドライン766)ではMSと機械弁を弁膜症性として扱うと記載がある. ESC/EACTSの弁膜症ガイドライン3)では明確なエビデンスはないが生体弁にはDOACを用いてよいという立場をとっている. 心房細動におけるDOACとワルファリンの大規模臨床試験では,弁膜症として記載があるものが13~ 26%あり,また心エコー所見上60%に何らかの弁膜症のある症例が含まれている767-770).ENGAGE AF-TIMI 48試験771)では13%の症例に中~重症弁膜症の既往があり,最多はMRで,弁手術の既往がある症例なども含まれている. 生体弁置換後の心房細動患者へのDOACに関する論 第13章 その他