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p.94 抽出テキスト

PCIが冠動脈疾患の治療に革命的な変化をもたらし,急性冠症候群患者の予後を著しく改善したことは論を俟たない.しかしながら,その技術の巧拙が患者の予後に直結する場合が少なくないことから,冠動脈疾患の急性期診療に携る医師にとっては,標準的な技能を獲得し,維持することがきわめて重要である.そのためには一定の治療実績(施術数)が必要であり,その専門家で構成する本邦の学術団体(日本心血管インターベンション治療学会:CVIT)の認定医,専門医の資格要件にも,主術者としてのPCI実施数が取り入れられている.

一方で,PCIの適応の有無については,外部からの客観的評価が困難なこともあり,治療医や所属施設の判断におおむね任せられてきた.しかし,待機的治療,とりわけ無症候患者の治療においては,事前の心筋虚血評価の実施割合に施設間で大きなバラツキがあることなどから,その適切性,すなわちエビデンスに基づき標準的な治療がなされているかどうかについて,疑問が投げかけられる事態となっている.

ほとんどの医療が公的保険の対象(国民皆保険)であり,その維持に保険料のみならず税が投入されている本邦では,不適正な医療,とりわけ過剰医療(overuse)は重大な経済的懸念となる.実際,2018年度(平成30年度)診療報酬改定では,「実態を踏まえた医療技術などの評価の適正化」を行うとの方針が示されており1133),待機的PCIについては,原則として術前の検査などにより「機能的虚血」の存在が示されていることを算定要件とする項目が追加された.虚血を生じない程度の冠動脈狭窄に対するPCIの有用性は一般に認められていないので,いわば常識的な要件であるが,この記載が過剰医療の抑制を求めるものであることは自明である.

こうした社会の要請に呼応する形で,CVITでは「Standard ized PCI」と銘打った学術団体としての自律(オートノミー)を示す活動を開始している.同学会の専門医制

度は,その研修施設あるいは研修関連施設となる条件として実施PCIの全例登録(J-PCIレジストリー)を課しているが,このデータベースをもとに各施設の治療の実情について全国との比較が可能なシステムとなっている.すなわち,表70に示す7項目(日本心血管インターベンション治療学会J-PCIレジストリーのフィードバックシステム) 1134)について,自施設が全体の中でどの位置にあるのかを確認することにより,自らの立ち位置を自律的に評価するシステムである.J-PCIレジストリーへの登録に際して入力項目は比較的少ないので,前述のAUCに匹敵するほど直ちにPCIの適切性に評価を与えるものではないが,それでも,例えば事前の虚血評価率や側枝への施術率にはPCIの適応に関する施設の考え方が反映されるので,そのフィードバックは自己評価や改善の原資となろう.

測定できなければ評価できず,評価できなければ改善できない.Standardized PCIの取り組みは緒についたばかりであるが,「医療資源の適正な配分」という社会の要請の下,学術団体としての意義ある一歩であり,今後の展開が期待される.

表70  Standardized PCI における7 つのパフォーマンス

指標1. 急性冠症候群(項目11)の割合2. 緊急症例(項目19)の割合3. 術前抗血小板薬使用の割合(項目13-3) 4. 非緊急例における虚血評価例の割合(項目13-1) 5. ST上昇型急性心筋梗塞例におけるDTB(door to balloon)時間(項目19-1) 6. 橈骨動脈によるアクセスの割合(項目121) 7. 非緊急例における主幹(segment 1-3,5-7,11)以外へのPCIの割合(項目24以降)項目番号はJ-PCIレジストリー項目と対応(中尾浩一. 2018 1134)より)