p.92 抽出テキスト
費用対効果を比較した結果が報告されている1109).それによると,BMSと比較しCoCr-EESの使用によって1症例あたりQLAYが0.018長期化し,また1症例あたり236ドルの費用削減が達成され,99%以上の確率で良好な費用対効果(1 QALYを得るための費用が5万ドル以下)となることが示された. 第1世代DESと第2世代DESの比較に関しては, SPIRIT IV試験のデータに基づく検討が報告されている1110).第2世代DESであるEESは第1世代DESであるパクリタキセル溶出性ステント(PES)と比較して標的病変不全を有意に減少させることが示されたが1111, 1112),2年間の追跡でEESはPESと比較して1症例あたり273ドルの費用削減をもたらした1110).また費用対効果に関しても,85.7%の確率で1 QALYを得るためのICERが5万ドル以下となることが示された.第2世代以降の新世代DESは,BMSおよび第1世代DESと比較してより良好な臨床転帰をもたらすだけでなく,費用対効果の面でも優れていることが示唆される. 4 PCI 対 CABG(対 薬物治療) DESを用いたPCIとCABGの比較として広く知られるSYNTAX試験では,左冠動脈主幹部(LMT)病変または3枝病変を有する症例において,PESによるPCIと比較してCABGが優れた成績を示すことが報告された142, 1113). SYNTAX 試験では,PCIに比してCABGのほうが初回の手技費用は1症例あたり3415ドル低額であったが,入院費用は10,036ドル高額であった1114).その後の5年間の追跡では,CABGに比してPCIは頻回の入院,再血行再建,薬物治療の費用の影響で医療費が高額であったものの,生涯費用ではPCIよりもCABGのほうが高額であった.PCIと比較したCABGの費用対効果は,1 QALYを得るためのICERとして16,537ドルであった.一方,LMT病変例, SYNTAXスコア≦22 の例,さらにSYNTAXスコアIIによって算出された4年の予測死亡率がCABGよりもPCIのほうが良好(低値)であった例では,PCIのほうが優れた費用対効果を示すことも報告された1114, 1115). 糖尿病を有する多枝病変例を対象として行われたFREEDOM試験では,積極的薬物治療に追加したPCI(大部分は第1世代DESを使用)とCABGによる血行再建の比較が行われ,中央値3.8年の観察期間においてCABG群 はPCI群に比しイベント発生率が有意に低かった172). SYNTAX 試験と同様に,初期費用はCABGのほうが低額であったが,初回の入院に要した総費用はCABGのほうが1症例あたり8622ドル高額であった1116).その後の5年間は,CABGに比しPCIのほうが再入院と薬物治療の費用の影響で高額な医療費を要したが,初期治療からの累積費用はやはりCABGのほうが3641ドル高額であった.5年の累積QALYはCABG群のほうが0.0312長く,PCIと比較したCABGの費用対効果は,1 QALY得るためのICERとして8132ドルで,99.2%の確率でICER/QALYは5万ドル以下となることが示された. 心機能の保持された(LVEFが平均67%)多枝病変例を対象とし,薬物治療,PCI(バルーンによる形成術またはステント留置術),CABGの3群の比較が行われたMASS II試験では,5年後と10年後のいずれにおいても,CABG群に比して薬物治療群とPCI群でイベントが多いことが示された495, 1117, 1118).MASS II試験において,5年間イベントなく経過するために必要な費用は,薬物治療群で9071ドル,PCI群で19,967ドル,CABGで18,263ドルであり,費用対効果は薬物治療がPCIおよびCABGよりも優れ,またCABGはPCIよりも優れることが示された1119). 大規模観察研究に基づくデータとしては,多枝病変を有する安定冠動脈疾患に対するPCIとCABGの4年超の長期成績を比較したASCERT研究の報告がある1120).ACCとSTSのデータベースをCenters for Medicare and Medical Servicesのデータとリンクさせ,CABG施行例(86,244例)とPCI施行例(103,549例)における費用対効果の比較が行われた.傾向スコアマッチングで調整された費用は,初回入院(CABGが24,290ドル,PCIが13,620ドル),観察期間中(2004~2008年) (63,785ドル対55,640ドル),生涯(184,933ドル対173,358ドル)のいずれでも,CABGのほうが高額であった.一方,QALYはCABGのほうが良好(観察期間中で0.2525延長,生涯では0.3801延長)であり, PCIと比較したCABGの費用対効果は,1 QALY得るための生涯ICERとして30,454ドルであった. このように,CABGはPCIと比較して優れた費用対効果を示すことが多くの研究結果から示されているが,これらの試験におけるPCIでは大多数の症例で新世代DESは使用されていない.今日のPCIの費用対効果を適正に評価するためには,本邦における検討も含め,さらなるエビデンスの集積が必要である.