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p.91 抽出テキスト

第11章 費用に関する考察

1 費用対効果の概念と指標

高齢化や医療技術の進歩などに伴う医療費の高騰は,本邦の健康保険制度における財政逼迫の一因となっている.医療費の削減は重要な課題であるが,それを実現するうえで,医療の価値や効率を適正に評価することが求められている.

医療の価値の評価においては,「質調整生存年」(QALY)という概念が用いられることがある.QALYは生存年数と生活の質(QOL)を併せて表現する1つの指標で,1 QALYは完全に健康な状態での1年間の生存に相当する.そして医療の効率は,しばしば費用対効果分析によって評価され,一般的にある医療技術によって増加した費用がそれに見合う効果をもたらしているかを意味する「増分費用効果比」(ICER)として表される.ICERは1 QALY伸ばすための費用とされることが多く,このICERが一定の値よりも小さければ,その医療が効率的であると解釈される.効率を判断するうえでのICERの明確な上限値は定められていないが,米国では5万ドルという閾値が用いられることが多い.

近年の薬物治療やPCI技術の進歩は目覚ましく,また薬剤や医療機器の価格は変動を続けているため,過去の費用対効果に関する検討結果をそのまま今日の医療に適用できるわけではない.さらに本邦と異なる医療制度を有する諸外国での検討結果を,そのまま本邦の医療に適用することも困難である.血行再建の費用対効果に関する検討の大部分は諸外国からの報告であり,以下にそれらのデータに基づく考察を行うが,本邦でもPCI前後の効用指数を算出するという手法でQALYを推測できる可能性が提唱されており1107),本邦の医療経済に関するさらなるエビデンスの集積が待たれる. 2 PCI 対 薬物治療

COURAGE 試験では,安定冠動脈疾患に対して至適薬物治療にPCIを加えても生命予後の改善は得られず,一方で費用は1万ドル増加し,PCIによって1 QALYを得るための生涯ICERは168,019ドルと高額であることが示された88, 1108).しかし,COURAGE試験では虚血の評価に基づいたPCIは施行されておらず,またPCI手技も古いものであった.

FAME 2試験では安定冠動脈疾患に対して,FFRの結果に基づき第2世代薬剤溶出性ステント(DES)を用いて行われたPCIが,薬物治療単独と比較して心血管イベント(特に緊急血行再建)を減少させることが示され,その効果は3年間追跡のデータでも追認された40, 41, 134).FAME 2試験では初期治療に要した平均費用はPCIのほうが高額であったが(PCI 9944ドル,薬物治療単独4440ドル,P< 0.001),3年の段階で両群の費用は同等であった(PCI 16,792ドル,薬物治療単独16,737ドル,P=0.94) 41).薬物治療単独と比較したFFRガイド下PCIの費用対効果は, 1 QALY得るためのICERが2年の段階で17,300ドル,3年の段階ではさらに低額となる1600ドルであり,いずれも一般的な上限値とされる5万ドルを下回る額であった.FFRによる虚血評価に基づいたPCIは,薬物治療単独と比較して長期アウトカムを改善するだけでなく,経済面でも有利な治療戦略であることが示唆される.

3 ベアメタルステント 対 薬剤溶出 性ステント

ベアメタルステント(BMS)が近年のPCIで用いられる機会は少なくなっているが,RCTのメタ解析に基づいて第2世代の薬剤溶出性ステント(DES)であるコバルトクロム・エベロリムス溶出性ステント(CoCr-EES)とBMSの