p.86 抽出テキスト
持続性または発作性の心房細動を合併する患者に対しては抗凝固療法が必要である1027).近年,高齢化の進行に伴い心房細動を合併する患者にPCIを施行する機会が増え,現在10%前後と報告されている1028, 1029).ステント留置後の早期であれば,アスピリンとチエノピリジン系抗血小板薬のDAPTのほかに,ワルファリンや直接経口抗凝固薬(DOAC)などの抗凝固薬が必要になり(3剤併用療法),出血リスクと血栓塞栓リスクのバランスを考慮する必要がある. 1.3.1 欧米のエビデンスと推奨 WOEST試験では経口抗凝固薬を必要とするPCI施行患者における2剤併用療法(ワルファリン+抗血小板薬単剤)と3剤併用療法(ワルファリン+抗血小板薬2剤)の安全性と有効性の比較が行われた.2剤併用療法群では3剤併用療法群よりも出血イベントが少なく,心血管イベントの複合発生率も低かった1030).さらにPIONEER AF-PCI試験においては,リバーロキサバン15 mg+クロピドグレルの2剤併用群と,従来のワルファリン+DAPTの3剤併用群との比較が行われ,リバーロキサバン15 mg+クロピドグレルの2剤併用療群では3剤併用群と比べて出血イベントが有意に減少し,有効性エンドポイントは同程度であった1031).同様の傾向はダビガトランを用いたRE-DUAL PCI試験でも示されている1032). このようにDOACとクロピドグレルの2剤併用療法は,従来のワルファリン+DAPTの3剤併用療法と比較して,血栓イベントと再血行再建の増加を伴わずに出血イベントを有意に抑制している.2018年のESC/EACTSガイドラインでは,3剤併用療法は虚血リスクが懸念される場合は6ヵ月,出血リスクが懸念される場合は,低リスク例で1ヵ月,高リスク例では初めからDOACとクロピドグレルの2剤併用療法が推奨されている1019).またAHAからの最新のエキスパート勧告では,DOACとDAPTの3剤併用は周術期1ヵ月以内とされている1033).European Heart Rhythm Association(EHRA)では,待機的PCIで最新のDESを用いた場合は,入院期間のみ3剤併用として退院時からDOACとクロピドグレルの2剤併用療法とすること,急性冠症候群に対するPCIの場合は3剤併用を3ヵ月以内としてDOACとクロピドグレルの2剤併用療法へ減量することを推奨している1034). 1.3.2 本邦での推奨と注意事項 以上より,臨床的に広く行われている3剤併用療法を一定期間行うことの有効性は否定しないが,デバイスの進歩や高齢者を中心とした心房細動治療を考慮し,欧米からの勧告と同様に,3剤投与は1ヵ月以内で,原則として入院 期間に限定することとした(図8).血栓症のリスクが高い場合は3剤併用療法を3~6ヵ月,逆に出血リスクが高い場合は2剤併用療法を6ヵ月に短縮することを推奨する. ESC/EACTSのガイドラインではステント血栓症のリスクのため3剤併用療法の早期中断が困難となる複雑なPCI治療手技を示しており,本邦においてもこの考え方は3剤併用療法の期間決定において参考となる(表63) 1035, 1036). また,PCI施行時にはDAPTの長期継続が必要な手技にならないように心掛け,出血性合併症を回避する治療方針を講じるべきである(表64) 1019). 本邦で安定冠動脈疾患を合併した非弁膜症性心房細動患者を対象に,リバーロキサバン単剤とリバーロキサバン+抗血小板薬単剤の併用を比較するAFIRE試験が現在行われている.エキスパートオピニオンとしてステント留置後12ヵ月以降の慢性期においては抗凝固薬単独療法を考慮してもよいこととした(図8). 抗凝固療法と併用するプラスグレルは本邦での保険承認用量が低用量であり,海外と同等に扱うことはできない.現状を重視してプラスグレルの併用を許容するが,現時点でのエビデンスは不十分であり,今後のデータ集積が必要である. 表63 ステント血栓症の予測因子 十分な抗血小板療法下でのステント血栓症の既往第1世代DES非ST上昇型またはST上昇型心筋梗塞complex PCI(3本以上のステント留置,3病変以上の治療,分岐部2ステント,総ステント長60 mm以上,慢性完全閉塞)糖尿病合併例のび漫性病変慢性腎臓病(Roffi M, et al. 2016 1035) およびGiustino G, et al. 2016 1036) を参考に作表) 表64 抗凝固療法施行例に対するPCI 周術期の出血を考慮 した処置虚血/出血リスクを評価する. 3剤併用期間を可能なかぎり短くし,PCI後は2剤併用を考慮する.ワ ルファリン服用中の場合,PT-INR目標値を治療域の低めに設定し,TTRを65%以上にするように考慮する.プロトンポンプ阻害薬を可能なかぎり併用する.可能であれば橈骨動脈からPCIを施行する. (Valgimigli M, et al. 2018 1019)を参考に作表)