p.84 抽出テキスト
1.1.2 アルガトロバン アルガトロバンはHITに対する有用性が報告されており1008, 1009),本邦ではHITに対する治療薬として保険承認されている.HITまたはHITを疑う場合は100 μg/kgを3~5分かけてボーラス投与し,その後6 μg/kg/minで持続投与する.投与開始から10分ほど経過したらACTを測定し, 250~400秒となるように適宜調節する.PCI後も抗凝固療法の継続が望ましい場合は,0.7μg/kg/minに減量し, APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)が基準値の1.5~3倍となるように適宜調節する.アルガトロバンは肝代謝であるため,肝機能障害のある患者では投与量の減量を考慮する. 1.2 抗血小板薬2剤併用療法 表60 PCI 施行時の抗血小板薬2 剤併用療法(DAPT)の推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル アスピリン未服用例にはPCI 前にアスピリン162~200 mg を投与し,その後81~100 mg/ 日を継続的に投与する. I Aステント留置後,アスピリンとADP 受容体P2Y12 阻害薬の2 剤併用療法を,少なくとも6ヵ月継続する. I A P2Y12 阻害薬未服用例にはステント留置時にプラスグレル20 mg またはクロピドグレル300 mg を負荷投与する. IIa C出血リスクが高い場合,DAPT を3ヵ月以内に短縮する. IIa B虚血イベントのリスクが高く,6ヵ月のDAPT で出血性イベントがなかった出血低リスク例では,DAPT を30ヵ月まで継続する. IIb Bアスピリン禁忌例にはチエノピリジン系抗血小板薬を単剤投与する. IIb Bクロピドグレルまたはプラスグレルを投与できない場合に,チカグレロルとアスピリンを併用投与する. IIb B STARS試験1010)に代表されるいくつかの臨床試験において,アスピリンとチエノピリジン系抗血小板薬の内服がステント血栓症の予防に有効性を示して以来,抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)はステント留置後の標準治療となった. 1.2.1 DAPTの期間と使用薬物 第1世代のDESを用いたPCI後は,ステント留置部の治癒・安定化が遅れるのではないかという懸念から,DAPT継続期間は長期化する傾向にあった.その後,本邦におけるj-Cypherレジストリー研究において,6ヵ月以内のチエノピリジン系抗血小板薬の投与中止はステント血栓症のリスクを高めるものの,6ヵ月後以降にチエノピリジン系抗血小板薬を中止しても2年間の心イベントのリスクは上昇しないことが報告された1011).さらに,1年以上チエノピリジン系抗血小板薬を継続しても,5年間の超遅発性ステント血栓症(VLST)や心血管イベントのリスク軽減効果が認められなかった1012).6ヵ月と12または24ヵ月のDAPT期間を比較検討したISAR-SAFE試験1013),ITALIC試験1014), SECURITY試験1015),また本邦で行われたNIPPON試験1016)などでは,いずれも長期DAPTの有効性が証明されなかった.さらに第2世代以降のDESにおいては,第1世代のDESに比べて明らかにステント血栓症のリスクが低いことが明らかになったこと1017)から,DAPTの期間は総じて短期化の傾向にある. 2012年のACC/AHAおよび2018年のESC/EACTSのガイドラインでは,ステント留置後のステント血栓症予防のため,出血リスクの低い安定冠動脈疾患患者にはアスピリンに加えて少なくとも6ヵ月間のクロピドグレル併用を,出血リスクの高い安定冠動脈疾患患者に対しては1~3ヵ月のクロピドグレル併用を推奨している1018, 1019).本邦におけるNIPPON試験やSTOPDAPT試験1020)においても, DAPT期間の短縮はステント血栓症や心血管イベントのリスク上昇に関与していない.一方で1年以上のDAPTの心イベント抑制効果は,糖尿病や心筋梗塞の合併,高度冠動脈複雑病変で層別化しても認められず1021, 1022),本邦の観察研究ではむしろ輸血を必要とする中等度以上の出血リスクが上昇することが報告されている1023).出血リスクの高い患者には長期のDAPT投与を避け,3ヵ月以内の短期化も検討するというように,出血事象を考慮した処方が望ましい.また抗血小板療法の至適投与期間は,人種差や新たに開発されるDESの使用薬剤により異なる可能性がある. 以上を考慮し,安定冠動脈疾患に対する出血リスクに基づくDAPT期間の欧米ガイドラインにおける推奨は,本邦においても外挿可能と判断した(図8). 1.2.2 出血リスクの評価指標 海外においては,DAPT継続期間を総合的に判断するツールが作成されている(表61 1024, 1025)).RECISE-DAPTスコアは,年齢,出血の既往の有無,白血球数,ヘモグロ