p.70 抽出テキスト
血行再建を目指すべきである. 予後改善のためにはこの3つの治療戦略を,個別にではなく統合して実践することが重要である.瞬時血流予備量比(iFR)ガイドで適応を決定し,IVUSガイドでステントを留置し,高率にCTOの手技成功を得たSYNTAX II試験は,まさに最新の治療戦略を具現した臨床研究であり,この試験においてPCIはSYNTAX試験のCABG群に匹敵する成績を得ることに成功した865).それとともに,成熟期を迎えたといわれるPCIの成績にはまだ改善の余地があることが示唆された.また,SYNTAX II試験はSYNTAX試験に比較して症例あたりの治療病変数が4.0病変から2.6病変に,3枝病変と判断された症例は83.3%から37.2%に減じたと報告している.適切に診断し,最適なPCIを行うことは,予後改善に寄与するのみでなく,医療経済的な観点からも合理的な治療戦略であると結論できる. 4つ目の治療戦略は,出血性合併症と造影剤腎症を考慮したPCIである.周術期の出血性合併症と造影剤腎症の合併は予後規定因子であることが報告されている.橈骨動脈アプローチは出血性合併症のみならず造影剤腎症の予防の観点からも,大腿動脈アプローチに優ることがメタ解析で示されている866, 867).また,腎機能に応じた造影剤使用量で手技を完結する工夫が肝要である. そして最後は,糖尿病,高血圧,脂質異常症,肥満,喫煙といった古典的冠危険因子の管理を含めた至適薬物治療に加え,禁煙,食事療法などの生活習慣の是正や運動習慣の獲得の実践である.血行再建後の長期予後は至適薬物治療の有無で大きく異なることが示されており,積極的にリスクを管理するとともに,虚血イベント抑制と出血性合併症リスクのバランスを考慮した抗血栓療法が重要となる868, 869). 2 アクセス部位 表48 PCI のアクセス部位に関する推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 橈骨動脈アプローチを優先する. I A 診断造影時とPCI時のアクセス部位として大腿動脈アプローチと橈骨動脈アプローチの優劣がRCTで検証されている.その代表は,RIVAL試験とMATRIX試験である870, 871). RIVAL試験では7201例が登録され,30日予後(死亡,心筋梗塞,脳卒中またはCABGに関係しない大出血)は大腿動脈アプローチ群と橈骨動脈アプローチ群で差はなかったが,橈骨動脈アプローチは穿刺部合併症を有意に減少させた(ハザード比HR 0.30,95%CI 0.13~0.71,P = 0.006). MATRIX試験では急性冠症候群の8404例が登録され,出血性合併症を加味した30日のnet adverse clinical event (主要心血管イベント(MACE)または大出血)ならびにBARC 3または5の大出血は,橈骨動脈アプローチ群で有意に低率であった(大出血1.6%対2.3%,相対リスク0.67, 95%CI 0.49~0.92,P=0.013).また,橈骨動脈アプローチは総死亡率の低下に関係する危険因子であった(1.6%対2.2%,相対リスク 0.72,95%CI 0.53~0.99,P=0.045). 観察研究とRCTを併せた60万例以上のメタ解析では,橈骨動脈アプローチは大腿動脈アプローチに比して出血性合併症を78%減らし,手技後の輸血を80%減らすと報告している866).また,橈骨動脈アプローチは腎機能障害のリスクを低下させることも報告されている867, 872). 以上から,一般的なPCI治療手技においては橈骨動脈アプローチを標準とすることが推奨される. 3 経皮的古典的バルーン血管形成術 1977年チューリヒで始まったバルーンによるPCI(経皮的古典的バルーン血管形成術:POBA)には当初,多くの反対意見があった.それでもその低侵襲性は魅力であり,そのため普及していった853).当時PCIは経皮的経管的冠動脈形成術(PTCA)と呼ばれ,percutaneous(経皮的:経皮的な穿刺法によりカテーテルを体内に挿入すること), transluminal(経管的:動脈の内側から行われる手技), coronary(冠動脈:手技が行われる標的血管),angioplasty (血管形成術:バルーンカテーテルを用いて血管を形成する手技)の頭文字をとったものであった. PTCAのおもな作用機序は粥腫および血管壁の亀裂形成(disruption)であり,粥腫の圧排効果はきわめて小さい.このため,バルーンによる拡張のみでは血管壁の解離,リコイル(弾性反跳)を防ぐことはできず,高率に発生する急性冠動脈閉塞や慢性期再狭窄が問題であった.適切なバルーンサイズや拡張方法の工夫などさまざまな議論がなされたが,臨床成績の大きな向上には至らなかった873, 874).