p.67 抽出テキスト
9.2.1 平均グラフト流量 冠動脈血流は他の臓器血流と異なり,拡張期に優位に流れるため,グラフト血流も問題がない場合は拡張期の血流が確認できる.しかし,グラフト血流量の絶対量が少ない場合や拡張期血流が十分確認できない場合は,血流競合,攣縮や解離などのグラフト不全,吻合部狭窄などの吻合不全を疑う必要がある. OPCABにおいては,冠動脈の再建が1本ずつ終わるたびにTTFMによる評価を行うことができる.吻合に際して標的血管吻合予定部位の中枢と末梢に血流遮断用の把持糸を掛けておくと,吻合後に標的血管の,1遮断なしの状態のグラフト血流量,2中枢側を遮断したときのグラフト血流量,3末梢側を遮断したときのグラフト血流量を測定することにより,吻合部の中枢端と末梢端に狭窄や閉塞などの問題がないか,また,標的冠動脈血流とグラフト血流が競合(competitive flow)していないか,などを評価できる(表46). ONCABでは,すべての吻合が終わって,心収縮力が回復し収縮期血圧が認められる状態となってから,正確なグラフト血流を評価することが可能となる. 9.2.2 拍動指数と拡張期フィリング指数 拍動指数PIは「PI=(最大流量-最小流量)/平均血流量」で算出される.PIによりフローパターンと抵抗性が表現されるため,高値がでた場合はグラフト血流に関して高い抵抗性があると考えられ,標的冠動脈の狭窄の残存,グラフトの攣縮や狭窄などのトラブル,末梢側吻合端のトラ ブルを考える. 拡張期フィリング指数DFIは「DFI=100×拡張期流量/ (拡張期流量+収縮期流量)」で計算される(単位は%).心電図でR波のピークからT波のピークまでを収縮期として,収縮期流量と拡張期流量を計測する.DFIはグラフト血流量に対する拡張期流量の割合を表現するため,高値ほど拡張期流量が多く,冠動脈血流としての妥当性が高いと考えられる. 9.2.3 再吻合の基準 TTFMによるグラフト不全の判断基準は,術後造影結果と照らし合わせた検討により,急性期グラフト不全の可能性が高くなるカットオフ値として,平均グラフト血流量に関しては15 mL/min,20 mL/min,動脈グラフトでは11.5 mL/min,左冠動脈系は15 mL/min,右冠動脈系は20 mL/ minなどが提案されている843-846).PIにおいては5未満, DFIは50%が目安という報告が多い.一般的にグラフト血流量で20 mL/min以上,PIで5未満がカットオフ値として推奨される. 測定値がこのカットオフ値から逸脱する場合,TTFMの異常が,グラフトの問題なのか,吻合の問題なのか,それとも標的冠動脈の病変なのかを検討して,再吻合の必要性の有無を考慮すべきである.TTFMによる量的評価とともに,形態評価が可能なモダリティとの併用が,グラフト評価の精度を高め,CABGの質の維持には効果的である847). 表46 トランジットタイム血流計(TTFM)におけるグラフト血流量,拍動指数とその評価 現象検討事項 平均グラフト流量(Qm) 20 mL/min以上問題ない可能性が高いが,PIが高い場合は吻合部に問題がある可能性 20 mL/min未満グラフト,吻合部,標的冠動脈に何らかの問題がある可能性を考慮 標的冠動脈中枢側遮断Qm維持+拡張期血流良好血流競合,吻合部中枢端の狭窄 Qm低下+拡張期血流低下末梢側冠動脈に異常,吻合部末梢端の狭窄,吻合部末梢灌流域が小さいQm増加血流競合,吻合部末梢に問題なし 標的冠動脈末梢側遮断Qm低下吻合部末梢に問題なし,血流競合,吻合中枢端の狭窄 拍動指数(PI) 5未満グラフト血流の抵抗性が低い 5以上吻合部狭窄,吻合部末梢側の狭窄残