p.63 抽出テキスト
等度狭窄の標的冠動脈への使用に際しては,グラフトの血流と開存性について懸念が生じうるため,標的冠動脈を適切に選択する必要がある.Glineurらは,SVとGEAを比較したRCTの結果から,自己冠動脈枝の狭窄度が80%以下の場合にはSVより機能的開存率が有意に劣ると報告した801).Sumaらは狭窄度90%以上がGEAの適応であるとし634),また,狭窄度80%以上との意見や801, 802),狭窄部位が#3までのRCA近位部で灌流域が十分にある場合が良い適応であるとするもの803),狭窄部の最小内腔径が1.1 mm以上には不適であるとするもの804)など,さまざまな条件での適応の選択が報告されている. GEAは中等度狭窄などに起因するグラフト流量不足により機能的閉塞が起こりやすいことなどから,推定される予後,狭窄度と灌流域などからグラフト開存性と効果を予測し,一定の条件を満たす症例に限定するほうがよい. 7.1.4 静脈グラフト 静脈グラフトは通常は中枢側を上行大動脈に吻合して使用するが,グラフト内腔圧が十分で血流が豊富であることが長所である.一方で,上行大動脈の手術操作は脳梗塞の危険因子となるほか,動脈グラフトに比べて血管内皮機能が低く,血栓形成や過形成による比較的早期の閉塞や,静脈壁の硬化による遠隔期の閉塞も起きやすく,開存率も一般に動脈グラフトより低いと考えられている.こういったことを総合すると,全動脈グラフトと比較して,SVを使用すること自体が危険因子であるとの解釈もありうる805). 動脈グラフトと異なり,静脈グラフトは自己冠動脈病変枝の狭窄度の影響を受けにくいため,動脈グラフトでは血流競合のリスクが高いとされる中等度狭窄のRCAは静脈グラフトの最も良い適応である801, 806).また,ITAでは十分なバイパス血流が得られない,心筋梗塞急性期など血管抵 抗が上昇している状態も,適応と考えられる. 7.2 グラフト形態の最適化 前述のART試験での5年の経過観察においてBITAとSITAで差がなかったことの考察の中で,静脈グラフトの閉塞やそれに伴う心筋梗塞などが多くないことのほかに,外科医の習熟度に関連して,動脈グラフトの使用法や形態が一律でなく,これがバイアスとなっている可能性に触れられている689).また,グラフト血流の評価からも,グラフトの形態が冠動脈への血流分布に影響し,ときに閉塞の原因となりうる807).すなわち,選択したグラフト材料を,どのような形態に配置しどのように吻合するかが,グラフトの開存と予後に影響する. 7.2.1 シーケンシャル・グラフティング 糖尿病や慢性腎臓病(CKD)などに伴う冠動脈のび漫性の狭小化や,特に本邦ではカテーテル治療の影響などにより,1つの冠動脈枝領域でも複数の枝への吻合を要する場合がある.また,OPCABでは心臓の形態が維持されるため,吻合の角度やグラフトの経路などの調整が容易である.動脈グラフトには限りがあり,いずれも採取に伴う合併症の懸念もあるため,最大限に活かすことが求められる. DionらはITAによるシーケンシャル吻合の平均約10年の経過観察で,良好な開存と再血行再建が少ないことを報告し808),ITAの恩恵を複数の枝に提供できることを報告している.シーケンシャル吻合は1本のグラフトで複数の吻合を可能とし,現在の冠動脈手術には欠かせない技法であるが,技術的に熟練を要するだけでなく,吻合手技が適切で 文献著者・研究, 報告年比較研究方法例数主な結果,所見観察期間グラフトの使用方法, 標的など流入路 49 Tatoulis 2015 TAR対 SITA-SV多施設,傾向マッチング12,464 TAR:非TARより早期死亡少なく,遠隔期生存率高い4.5年BITA の19%はRITA で大部分はLCXへ,RAはRCAへYが18% 50 Glineur 2016同所BITA対Y RCT 304 Y:心血管・脳血管イベント,MI+PCI,MI+ PCI+脳卒中の発生率低い3.4± 2.1年Yまたは同所ITAをLCXへ(YのほうがITAでの吻合数多い),残りはSVまたはGEA ACBなし 51 Gatti 2018 同所BITA 対BITA-Y傾向マッチング80生存率・ストレス試験成績・開存性いずれも同等5.9年Yまたは同所ITAをLCXへACBなし ACB: 大動脈・冠動脈バイパス,Dx: 対角枝,GEA: 胃大網動脈,LAD: 左前下行枝,LCA: 左冠動脈,LCX: 左回旋枝,MAG: 多数の動脈グラフト, MI: 心筋梗塞,RA: 橈骨動脈,RCA: 右冠動脈,RITA: 右内胸動脈,SAG: 1動脈グラフト,SV: 大伏在動脈,SWI: 胸骨創感染,TAR: 全動脈再血行再建 表43 (続き)