p.56 抽出テキスト
膜の性状が特に悪い症例には内膜摘除術を追加で行う.内膜摘除術は1950年代から行われてきた術式であったが,当時の成績は不良であった742–744).しかし,術式の変更とともに近年その成績が向上してきたため,より複雑な病変に対して行われている. 5.2 on-lay patch graftingの適応 LADのび漫性狭窄病変に対するon-lay patch graftingの最大の目的は,末梢側の血行再建のみでなく,広範囲に及ぶ狭窄病変により虚血に陥っている側枝への血行再建を行うことである.び漫性狭窄病変では,末梢側に通常のグラフトの吻合が可能であってもその中枢側に狭窄が存在するため,側枝(特にLADでは対角枝や中隔枝)に対する血流は十分にならない.このような症例では側枝を含めた長い血行再建が必要となる.すなわち本法は,広範囲の側枝への血行再建のため,できるだけ長くグラフトを吻合する必要がある症例に対して,行う術式である. また,冠動脈末梢に病変が連続して存在する症例で,遠位部の病変より中枢側で吻合すると末梢側の狭窄を残す結果となる場合にも,on-lay patch graftingが必要である.末梢まで連続した石灰化病変のため通常の吻合が不可能な場合は,最終的に内膜摘除術を含めたon-lay patch graftingが必要となる.しかし,このような症例では前壁中隔の陳旧性心筋梗塞をきたしていることが多く,術前にLAD支配領域のバイアビリティを心筋シンチグラフィやMRI,心エコー法などで評価しておく必要がある.バイアビリティに乏しく,血行再建を行っても虚血の改善が見込めない症例では,本術式を行う意義が小さいからである. 5.3 on-lay patch graftingの術式 5.3.1 対象と使用グラフト 基本的にはび漫性狭窄病変部を長く切開し,その切開長に合わせて吻合する方法である. 対象とする冠動脈はLADが多い.LADから分岐する血管(対角枝や中隔枝)は多数存在し,その灌流する領域が広いためである.LADの場合,再建に使用するグラフトは内胸動脈(ITA)を使用する.一般的にバイパスグラフトとしては静脈グラフトより動脈グラフトのほうが開存率が良好で,特にITAは10年後の開存率が90%を超え,最良のグラフトとされている552).LADに対してITAグラフトを使用することで生命予後も改善されるが,これはon-lay patch graftingでも同様と考えられる.ITAの採取はskeletonization法で行ったほうが長くて太いグラフトが得 られるため,広範囲の吻合には適している. 5.3.2 on-lay patch grafting法 on-lay patch grafting法(図4)はび漫性病変部位の全長を切開し,動脈硬化内膜を摘出せずに血管を再建する方法である740).末梢側に切開を進め,正常内膜に近い部位に到達した時点で切開を終了する.グラフトを同じ長さに切開し,長い吻合を行う.8-0か7-0のポリプロピレンを数本継ぎ足しながら吻合を行う.側枝の入口部を直接確認しながら,閉塞しないよう注意して縫合する.切開,吻合する長さは2~10 cmとなる. この術式で重要なのは動脈硬化病変を縫合ラインの外に排除することである.グラフト吻合による新しい内腔のほとんどは正常な内膜のみとなるため,長期開存を期待できる. 5.3.3 内膜摘除術 内膜摘除術で1950年代から行われてきた術式は,冠動脈切開部から内膜をけん引して引き抜く方法(クローズド法)であったが,開存率が悪く,現在行っている施設は少ない.一方,長い切開の後,直視下に内膜を剥離・摘出し同一長に切開したグラフトで再建する術式(オープン法)のほうが,開存性は高い.これは基本的にはon-lay patch grafting法と同様の概念であり740),再建された血管の内腔のほとんどはグラフトの正常内膜となる. 内膜摘除術はon-lay patch grafting法の延長線上にあり,内膜の性状がより悪い症例で行う術式である.摘除は末梢側まで行い(図5),正常内膜に近いと思われる部位に到達した時点で切開を終了し,正常内膜部位で後壁内膜を固定する.摘除された面は外膜のみとなり,外膜面に残存した 図4左前下行枝のび漫性狭窄部に左内胸動脈グラフトを長 く吻合