p.48 抽出テキスト
治療とCABGを比較したRCTとしては,MASS II試験495), STICH試験212),BARI 2D試験183)がある.MASS II試験は主幹部病変,低心機能例を除いた比較的低リスクの単純な病変(2枝病変42%,3枝病変58%)を対象とし,症例数も少ない.追跡期間5年では有意差を認めなったが,10年では心臓死は薬物治療群20.7%,CABG群10.8%(P= 0.019),心筋梗塞は薬物治療群20.7%,CABG群10.3% (P=0.010)と,いずれもCABG群で低率であった495). STICH試験はLVEF≦35%の低心機能を伴う安定冠動脈疾患に対する治療として,薬物治療(602例)とCABG(610例)を比較した.追跡期間5年では有意差を認めなったが, 10年では総死亡が薬物治療群66.1%,CABG群58.9% (P=0.02)で,生命予後改善効果の大きさは10年間でNNT=14 である212).BARI 2D試験(糖尿病患者763例)では強力な脂質低下療法が施行されたが,CABGを先行させることにより追跡期間5年の心筋梗塞発症率(積極的薬物治療群17.6%,CABG群10.0%)をさらに下げることができ,心筋梗塞の二次予防効果の大きさは5年間でNNT=13である183). これらのエビデンスから「積極的薬物治療が施行されている状況でも内胸動脈を使用したCABGは生命予後改善効果と心筋梗塞二次予防効果を有し(エビデンスレベルA),その治療効果は10年目以降も持続する」ことがわかる.ただし,薬物治療の進歩により,特に単純な病変ではYusufらの時代よりもCABGの治療効果の顕在化に必要な年数は長くなっている可能性がある(表30). 1.2 糖尿病を合併した2枝病変,3枝病変 CABGとPCIを比較した本邦唯一の前向きコホート研究であるCREDO-Kyotoレジストリーの報告では,2枝病変と3枝病変(5420例)を対象とした場合,PCI(BMSによる)がCABGよりも3年死亡率が有意に高率であったグループは,3枝病変ではなくむしろ糖尿病合併群(調整後ハザード比HR 1.38,P=0.003)であった496).また,2枝病変・3枝病変・主幹部病変(3982例)を対象とした報告でも,非糖尿病患者ではPCI(DESによる)の5年死亡率はCABGと差を認めなかったのに対して,糖尿病患者では高率(調整後HR 1.31,P=0.04)であった497). 2018年2月22日「Lancet」オンライン上でHeadらは, 2枝病変・3枝病変・主幹部病変を対象とした11のRCTの 主宰者とコンタクトをとり,合計11,518例の患者データを解析した結果を報告した173).追跡期間は平均3.8年,5年死亡率はCABG群9.2%,PCI群11.2%(P=0.0038)とCABG優位ではあるが,生命予後改善効果は5年間でNNT=50 と大きくはない.そしてサブグループ解析で,量的交互作用(treatment interaction)があるのは糖尿病だけであった.特に糖尿病を合併した2枝病変・3枝病変では5年死亡率はCABG 群10.0%,PCI 群15.5%(P = 0.00037)であり,CABGの生命予後改善効果の大きさは5年間でNNT=18 であった.逆に非糖尿病患者ではCABGとPCIはほぼ同等であった.SYNTAXスコアでは交互作用はなかったが,高点数になるほどCABGの生命予後改善効果が大きくなる傾向にあった. 2 術前のマネジメント 2.1 全身状態の評価 術前に冠動脈造影だけでなく,残存心筋,弁膜症などの心機能とともに各臓器の機能,動脈硬化性病変,合併疾患の程度など全身状態の評価を行うことは,術後合併症を予防するために選択すべきCABG手術手技,術中・術後管理の注意点を知るうえで重要である.また,合併疾患の状況を把握し,手術に臨める状態にあるかどうかを検討する.・ 血液検査:貧血,腎機能・肝機能の評価,感染・糖尿 病・凝固線溶系異常・甲状腺機能障害・電解質異常の有無,既存疾患の状態などを評価する必要がある.・ CT:頭部:脳疾患の有無,無症候性脳梗塞の程度など を評価する.胸部:大動脈の動脈硬化性変化を評価し,オンポンプか オフポンプか,大動脈遮断,大動脈中枢吻合の可否など,術式の選択に大きく関わる情報を収集する.腹部:腹部大動脈から腸骨動脈にかけて動脈瘤の有無を 確認し,また末梢側は大腿動脈レベルまで閉塞性動脈硬化症の有無を確認する.・ 心エコー検査:心機能,左室拡大の程度,弁膜症の評価 とともに,心筋虚血領域の評価に有効である.・ MRI:心臓MRIでは左室機能の正確な評価,遅延造影 MRIでは心臓バイアビリティの評価が可能である.・ 心筋シンチグラフィ:心筋バイアビリティを評価する.・ 頚動脈エコー検査:頚動脈に狭窄病変や可動性プラーク 表30 CABG による血行再建に適した病態・糖尿病合併・低心機能(LVEF≦35%)・SYNTAXスコア≧23の多枝病変,主幹部病変