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p.47 抽出テキスト

模レジストリー(Nationwide Impatient Sample)に基づく検討では,左心耳閉鎖術により入院中の脳血管障害の発症率が低下するが,出血イベント,心嚢水貯留,心タンポナーデが増加し,院内死亡率はむしろ高くなると報告している490).これらの所見から,CABGに左心耳閉鎖術を追加することの安全性に関しては今後さらなる検証が必要と考えられる.

外科的左心耳閉鎖術の問題点として,外科的な縫合閉鎖ではしばしば閉鎖が不完全となることが指摘されてきた.経食道心エコーを用いた解析では遺残血流が全体の60%にみられ491).こうした不完全閉鎖例では脳梗塞の発症率が有意に高いことが報告されている492).心外膜側から左心耳を挟み込む外科的閉鎖デバイス(Atriclip ®)が本邦でも使用可能となった.CTを用いた解析で左心耳閉塞率が98%以上と高く493),291例の開心術症例を対象とした

初期治療成績では,平均3年の観察期間で脳梗塞発症は5例(1.7%)と少ないなど,いずれも成績は許容できるものであった.今後はさらにエビデンスレベルの高い検証,大規模RCTの成績が待たれる.一般的な外科的左心耳閉鎖術後の抗凝固療法の是非に関しては,いまだ十分な検証がなされていない.ただし,Atriclipに関しては,術後に抗凝固療法を行わずアスピリンのみ投与した場合でも, 1年あたりの脳梗塞発症率は0.5%と低く,CHA2DS2- VAScスコアから算出される予測脳梗塞発症率から87.5%の相対的リスク軽減効果が得られたと報告されている493).以上に鑑み,2017年のSTSガイドラインでは心房細動例の開心術実施時における血栓塞栓症予防のための左心耳手術をクラスIIAで推奨しているが,本邦ではIIbとした.

第6章 CABGの手技

1 薬物治療およびPCIとの比較

1.1 治療効果とその大きさ

CABGによってもたらされる真の治療効果は薬物治療と比較したRCTによって評価可能である.なかでも総死亡はかなり客観的なエンドポイントである.またRCTにより統計学的有意差が検出されCABGが治療効果を有することが確認できても,実際の臨床現場で手術適応とする価値があるか否か(手術するかいがあるか否か)は別の問題である.この考え方は,治療効果発現必要症例数(number needed to treat: NNT)という概念を用いて一部は説明することができる.NNTとは,ある期間に1つのイベント発生を予防するのに治療する必要のある患者数であり,数値が小さいほどその治療効果が大きい.

1994年Yusufらによる安定冠動脈疾患患者2649例(主幹部病変6.6%,左冠動脈前下行枝近位部病変59.4%,

1枝病変10.2%,2枝病変32.4%,3枝病変50.6%,糖尿病合併例9.6%)を対象としたメタ解析で,CABGは当時の初期薬物治療群と比較して5年目から生存率に有意差を認めるようになり,その差は10年目まで持続することが報告された133).生命予後改善効果の大きさは5年間でNNT= 18,7年間でNNT=17であるが,10年間でNNT=24とその効果は小さくなってしまっている.CABGは生命予後改善効果を有するというこの事実が(当時は発見であったかもしれない),安定冠動脈疾患に対する積極的薬物治療やPCIの出現と進歩にもかかわらず,CABGがクラスIとして推奨され続けていることの主たる根拠となっている.この1994年のYusufらの報告に対しては,1当時はスタチンが投与されていなかったが,今日におけるCABGにはもはや生命予後改善効果はないのではないかとの意見がある一方で,27年目以降に治療効果が小さくなっていくのは90%の患者で静脈グラフトしか使用されていなかったからで,今日では原則ITAを使用しているので効果はもっと長期間持続するはずである494)という意見もある.

スタチンとITAグラフトが使用される時代における薬物