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p.40 抽出テキスト

冠動脈造影が,若年者を除いて推奨されるのは,心臓血管外科手術の場合と同様である.

TAVIを行う患者に対し術前にPCIを行うべきかどうかは,今のところ意見が分かれている358–360).当初,単施設の成績では有効という報告が多かったが,2017年のメタ解析361)では,TAVIの前に行うPCIに明らかな有用性は認められず,むしろ30日死亡と血管合併症の増加が認められた.症状がなければ,残存SYNTAXスコアや冠動脈疾患の重症度はTAVI後の予後と関係ないとの報告もある362, 363).したがってTAVI前の血行再建をルーチンで行う必要はなく,虚血による症状に応じてPCIを考慮すべきと考えられている.

しかし,重症ASにおける虚血の評価は難しく,ASそのものによる左室心内膜下虚血や左室の線維化,左室肥大の影響があるため,冠動脈狭窄の虚血への寄与度を評価できないことが多く,心筋血流予備量比(FFR)などの機能的狭窄度評価も難しい.しかしFFRによって大動脈弁の手術が回避された,同時に行う血行再建が減少したとの報告もある364).少なくとも重症AS例においてFFRは安全に施行可能である365).

4.2.2 僧帽弁閉鎖不全症

表22 僧帽弁閉鎖不全症(MR)手術前のPCI に関する推奨とエビデンスレベル

推奨クラスエビデンス

レベル

経皮的僧帽弁クリップ術前の冠動脈病変に関するハートチームでのディスカッションI C術前検査としての冠動脈造影(若年者,閉経前の女性を除く) I C虚血性MR で単独では手術適応とならない症例の,主要冠動脈高度狭窄病変に対するPCI IIb C

僧帽弁閉鎖不全症(MR)合併冠動脈疾患もASの場合と同様に,弁膜症が外科手術適応であれば同時にCABGを行うのが一般的である.MRが冠動脈疾患を合併する原因としては,いうまでもなく虚血性MRが主体をなす.虚血を改善することによりMRが改善される可能性もあり,ある程度までのMRは血行再建を優先するほうがよい可能性がある366).単施設の少数例ではあるが,PCI施行後に低侵襲の僧帽弁外科手術を行う可能性についての検討は,良好な成績を報告している367, 368).

高齢者などの手術高リスクMR例に対する経皮的僧帽弁クリップ術による低侵襲カテーテル治療が2018年に保険承認され,本邦でも臨床応用が始動した.実際の対象患者

は冠動脈疾患による機能性MRが多いが,僧帽弁に対するカテーテル治療前の血行再建の有効性については,症例報告369)があるのみでエビデンスはない.経皮的僧帽弁クリップ術前の冠動脈病変重症度をSYNTAXスコアIIで評価することの有用性が検討された報告もあり370),ガイドラインとして一般化できるものではないが,ハートチームの議論の参考となる.血行再建と弁膜症治療については個別にディスカッションしていくことが重要であろう.

4.3 CABG

4.3.1 大動脈弁狭窄症

表23  CABG 予定症例の大動脈弁狭窄症(AS)の治療に

関する推奨とエビデンスレベル

推奨クラスエビデンス

レベル

重度AS に対する大動脈弁置換術(AVR) I C

中等度AS に対するAVR IIa C

本邦においてCABGの症例数が減少する傾向の中,弁膜症に対する手術数は増加している.2015年の単独大動脈弁手術は8561例で,そのうち2492例(28.8%)にCABGが併施され371),2005年の16%に比べて大きく増加している372).患者の高齢化,動脈硬化の重症化が原因と考えられている.CABG+大動脈弁置換術(AVR)の死亡率は1.3 ~14.1%と成績はさまざまであるが373),単独CABGの死亡率よりは高い(2015年本邦の単独AVRの死亡率は2.0%) 374, 375).

初回CABG時に放置したnon-significant ASに対して,その後に施行したdelayed AVRでの高い手術死亡率(14~ 24%)が報告されて以来376, 377),中等度ASに対してもAVRが推奨されてきたが,2017年のECC/EACTSガイドラインではこの記述は削除された.近年のTAVIの発展,普及とその良好で安定した成績を考慮すると,中等度ASは経過観察として将来TAVIで対応するなどの,新たな治療戦略も許容できると考えているからであろう378).